能舞台の背景はいつも老松。橋掛りに、一の松、二の松、三の松。
三保の松原、羽衣で有名だが、海風で樹形はゆがむ。
となり町では、昔の街道がこんなふうに整備されている。
根引きの松。門松、京都ではコレ。
京都御所、みどりの主役はアカマツ、クロマツ。
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歌舞伎座の初春大歌舞伎で、『勧進帳』を観たよ。バックに巨大なマツの木の絵があった。
お、歌舞伎初体験か。おもしろかったかな? マツは、能舞台の背景が本家で、これが歌舞伎「勧進帳」の舞台に転用されたんだ。
日本では古くから親しまれてきた木だね。地名や人名にも、松山、高松、松本、松浦、松崎・・・などマツのつく名は沢山ある。
日本三景も、松島(仙台)、安芸の厳島(広島)、天の橋立(京都)、3つともマツの風景。
日本三景はぜんぶ海だね。♪われは海の子白波の、騒ぐ磯辺の松原に・・・。マツには海がよく似合うなぁ。
マツは、他の木が育てないような、砂地ややせた土地でもよく育つんだ。海岸にはクロマツ、山にはアカマツというのが、一般的だね。
築地松(ついじまつ)というのを聞いたことがあるかな?
家のまわりに植えてあるマツの林だよね。社会の教科書で見た。
あれは、出雲地方で見られる屋敷林のひとつでクロマツの林。家を風から守る役目をしている。
マツは、防風林とか防砂林などに使われることが多いね。街道沿いに多いのもそのためだ。
あ、こないだ読んだ時代モノの漫画でも、マツ並木の街道を歩いていたシーンがあったよ。
そう。街道ではマツやスギが代表選手。徳川幕府が整備するときに、陽射しや風を遮るために並木を設けるよう指示したんだよ。
生活に根づいてる木。日本人には身近なんだね。
そうした役割のほか、鑑賞の対象としても。庭木・盆栽はもちろん、マツを詠んだ歌も多いし、羽衣伝説などの物語・・・。枝ぶりがよくて目立つ点が好まれるようだね。
絵になるよね。浮世絵なんかにも大抵描いてある。
そうだね。実際に存在したことも考えられるけど、縁起物としての意味も大きいだろう。常緑樹のマツは常磐木(ときわぎ)といって、昔から「めでたい木」とされている。
お正月のお飾りにも使われているし。
うん。また、日本のマツ、アカマツ、クロマツは葉が2本で、枯れても2本一緒。それが「枯れて落ちても二人連れ」なんて喜ばれることもあるよ。
松葉でおすもうしたことがあるなぁ。あ、松葉杖は?
あはははは。あれはマツでつくられているわけではなくて、あの形が松葉に似ているからだろうね。
でも、外国のマツには、葉が3本、5本のものが多い。日本のマツだって、高山のハイマツは5本なんだよ。
え? 葉っぱって、全部2本なんじゃないの?
世界にはマツの仲間は100種ほどあり、わが国には10種ほど。ハイマツ以外にも、名もゴヨウマツ(五葉松)という5葉のマツもある。
ヨーロッパ原産で、生け花なんかにも使う葉の長いダイオウショウ(大王松)は3葉。世界には、3葉、5葉は多い。1葉のもの、4,7、8、9葉もあるということだ。
マツという木自体は、日本中どこにでもあるの?
北海道にはアカマツ、クロマツが自生していない。
あれ? エゾマツって聞いたことあるよ?
お、よく知ってるな。そう、北海道にあるのはトドマツ、エゾマツ。でも、これはマツという言葉がついているけれど、モミ属、トウヒ属なんだ。
ということは、北海道以外のほとんどでは見られるってことだね。
でも、そんなにメジャーな木なのに、山で森のようになっているところはあまり見たことがないような気がするよ? 海岸のほかは、お寺や大きなお庭などで、きちんと整えられている木ってイメージ。
おっと、鋭いなぁ。いいところに気がついたね。
そう、昭和30〜40年代までは、どこの里山にもマツが沢山あったんだ。でも、今はずっと減ってしまった。
これは、日本人が里山を使わなくなって、土が肥え、マツを圧倒する樹木が茂りだしたこととしたことと、「マツ枯れ病」(いわゆる「松くい虫」)のため。
一方、うんと古い昔、人の活動が盛んでない時代にも、マツは目立たないんだ。
このあたりの話、ちょっと詳しく森林雑学ゼミで説明することにしよう。
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