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2011.10
じぃじ先生 ちょっと教えて
 

「モッタイナイ」のマータイさんが亡くなったね。

 

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マータイさんが唱えた「もったいない」を、今、改めて。







植栽後40年 大阪万博(1970年)の跡、全くの更地に植えられた木々も、今やこんな立派な森に。







カラマツ人工林・植栽後約30年 
長野県富士見







何かを記念して木を植える。じぃじ先生もやったことがあるらしい。
小さいけど、これも「植樹」だよね。







スギ人工林・植栽後約80年 
奈良県吉野







人工林の開祖・吉野の林業技術をまとめた『吉野林業全書』(→2011.7森林雑学ゼミ)より。
スギやヒノキ、当時こんな風に植えてたんだって。

 

 

 

ワンガリ・マータイさん。目が覚めるような青いドレスで、「モッタイナーイ!」ってスピーチしていた人だよね。

ケニアのもと環境大臣で、ノーベル平和賞の受賞者だ。

うん。2005年の愛知万博(愛・地球博)で来日したとき、日本の「もったいない」という言葉を知ったんだよね。モリゾーやキッコロと並んでる写真を見たことがあるよ。

そう。環境問題に長年取り組んできた彼女には「3つのR」という合言葉がある。それすなわち、reduce(無駄の削減)・reuse(再使用)・recycle(資源の再利用) 。
「もったいない」はそれらをたった一言で表す素晴らしい言葉だと、世界に紹介したんだ。


マータイさんは、もともと、アフリカで植林活動をしていたそうだけど。

1977年に始まった「グリーンベルト運動」のことだね。
ケニアに7本の木を植えたのをきっかけに、アフリカ全土に広がり、今では、のべ10万人以上が参加、植えた木は4000万本とか。

ねぇ、アフリカってもとは木が茂ってたんでしょ? ナイル川はエジプト文明を支えたわけで。

そうだよ。もちろん広い大陸だから、大砂漠も広大なサバンナもあったけど、ナイルの水源であるアフリカ山地はもともと豊かな森林地帯で、ナイル川は水を送り続けてきた。そして、時折の洪水のおかげで、農地が潤ってエジプト文明は繁栄したという・・・。

でしょ? でも今、森林は無い。どうして無くなっちゃったの?

近代になって、アフリカに西洋先進諸国の勢力が拡大したことが大きい。木材採取、農業その他産業開発で伐採進行して、森林地帯は荒れてしまったんだよ。

マータイさんたち、それを何とかしようと思ったのかな。

彼女はね、「3つのR」をベースにして、自分たちが住む地球を大切にすること、破壊に追い込まないこと目指したんだ。
「植林」については、多くの人々が生活の糧を得る助けとなったといっている。木は燃料であり食料の供給源であり、また土地を侵食から守ったのだと。


その「植林運動」なんだけど、「環境を守るために木を植えましょう」って言うよね。どうして木を植えると環境を守ることになるの? いまひとつピンとこないんだけど。

森林があると、いろいろな「環境」を提供してくれるだろう?
たとえば、厳しい気候をやわらげる、水を安定して供給する、良い土壌をつくる・・・。

土砂崩れを食い止めるとか(→2010.8ちょっと教えて)。完全には防げなくても弱めてくれる。

そう。自然災害の防止・軽減、防火、防音、大気浄化、二酸化炭素吸収貯留、風景、快適性、生物種保全・・・数えきれないほどのメリットがある。
だから木の無いところに木を植えて森林をこしらえ、人間たちはその恩恵にあずかろう、というわけ。

前に教えてもらった、生態系サービス(→2011.2森林雑学ゼミ)のこと?

その一部だよ。生態系サービスは、物質資源、環境資源、文化資源すべて、人間に有益なものの提供のことを指している。

木の無いところといえば砂漠。砂漠の緑化というのもよく聞くけど、水の無い砂漠に木を植えるなんて無茶じゃないのかな?

その通り。もともとあった森林が壊れて砂漠状態になったところなら、木を植えて森林に回復することは可能。
でも、最初から砂漠だった場所というのは、そもそも水(降水)が無くてその状態なのだから、木を植えても育たない。もちろん、十分に水をやる、水路を作って水を導くなど、途方もない努力があれば可能性もなくはないだろうが。
緑化運動のなかには、そのあたりを充分に理解せずただ植栽すればよいとするものも、残念ながら多いね。


まず草とか小さな木を植えて、そのあと大きく育つ木を植えるとか、段階的に森林をつくっていくような工夫はできないの?

そうだね。まず草が生え、小さな木が生え、大きな木の森林になってゆくという自然界の過程、すなわち遷移に従うことが一番安全だ。
だが、それには時間がかかるからと、大きくなれる木をいきなり植栽するのが常道だ。しかし、それを成功させるには、植えたあとに面倒を見てやることこそが大切なんだが・・・。
日本の人工林で、今、間伐が不十分なことが大きな問題になっているのは知っての通りだ(→2010.8森林雑学ゼミ)。

じぃじ先生、前に「戦後にスギを植えすぎちゃった」と言ってたけど(→2010.8森林雑学ゼミ)、あれって植林の失敗例なの?

失敗とは手厳しいなぁ。でも、大きな課題であることは確かだ。
昭和30〜40年代、木材が必要という声を受けて人工林が増加。スギ、ヒノキ、カラマツなどの人工林は、わが国の森林面積の4割にもなったんだ。
しかしその後、経済成長などによって人口が都会に集中し、それら人工林の手入れの必要な時期に森林では人手不足になってしまった。それに外国産材大量輸入の結果、国産材の価格は低迷、人工林の評価はガタ落ち。
一方、日本の木材ストックはぐっと増えた。この大切な資源をいかに活用するか。今後の木材の使い方と森林管理のあり方が問われているね。


だいたい、植林って木が相手なんだから、そんなにすぐ効果は出ないよね?  

もちろんそうだ。明日からすぐに、というわけにはいかないよ。
前に話した、森林の条件を覚えているかな。鬱閉(閉鎖)がその目安になる(→2010.6.17ひとりごと)。わが国のスギやヒノキで言えば、植栽後15〜20年くらいだね。


植林運動に参加しようって呼びかけ、よく見かけるよね。あちこちでやっているけど、誰でも気軽にやっていいものなのかな?

お、大切なことに気づいたね。
その土地の気候や土壌などを知って、植えて生育可能な樹種を選ぶことが基本だよ。場所も、土地の持ち主の了解・許可がもちろん必須。それを無視したもの、迷惑植樹はいけない。
ただ、植え方などについては専門家に指導を仰げば、素人でもさほど難しいことではないよ。
とにかく何より大切なのは、さっきも言った、植えっぱなしでなく後の面倒を見ることだね。

時間と手間がかかるんだなぁ。

さっきから出ている「植林」という言葉、ちょっと考えてみよう。
「植樹」「植栽」「木を植える」。それと「植林」。これらの言葉に、違いはないかな?
「林」ってなんだろう? 「木」を植えて、それを育てたものが・・・。

あ! 「木」が集まってはじめて「林」になるんだ。

そうそう。

そうか、「林」は植えられないんだ! 1本1本ありきで、長い間かかってできあがるもの。だからこそ、木を植えることは思いつきや行き当たりばったりではダメなんだね。

 

 

 

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