只木良也森林雑学研究室 本文へジャンプ

 
2011.11
じぃじ先生 ちょっと教えて
 

東日本大震災から、もう8ヵ月だね。

 

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農水省まとめ「東日本大震災と農林水産業基礎統計データ(図説)」より、
P16「林業・木材加工業の被害状況」





シイタケは「特殊林産」。栽培するためのほだ場が「特用林産施設」。京都にて。





治山ダムは「治山施設」。
土砂を食い止め溜めることで谷川の勾配を緩和し、水流を弱める働きが(→2010.3.7ひとりごと)。京都・醍醐。





「林道」が崩壊! 斜面を横切る道に、急いで応急処置をする。これは今回の地震被害風景ではありません。岐阜にて。





ほんとだ、船がひっかかってる!
青森・八戸市市川町の海岸林。
八戸市森林組合さんによると、「復旧作業中だが、海水に浸かった部分は枯れており来春までに死んでしまうものも出るだろう」。どうかどうか・・・。
※写真提供:八戸市森林組合





高田松原、かつての姿。7万本の壮大なマツ林は「日本の名勝100選」にも(→2011.4ちょっと教えて)。
※写真:『日本の海岸林』(ソフトサイエンス社、1992年)より




あの大津波に耐えた「希望の松」。
お願い、枯れないで!
※写真提供:義援バルーン空撮 





 

 

  あの大地震に関連する農林水産関連の被害額って、2兆円を超えるんだってね。ニュースで見たよ。

そのようだね。想像もつかない、途方もない金額だ。
1995年の阪神大震災が900億円。これは都市型地震で、むしろ人的被害が大きかった。
農村・山間部を襲った2004年の新潟中越地震は、1,330億円。
これらと比べても、東日本大震災は桁違いの被害が出ている。

森林に限っての被害がどれくらいだったのか、調べてみたら農林水産省のサイトに資料があったよ。被害額は1,967億円にのぼるんだって。
こんなふうに被害状況が表にまとまってるけど、被害額ってどうやって計算するの?

それはもう様々だなぁ。
その被害物が、正常な生産物として売ったときの収入額、その被害物の建設費、再生するとしての経費・・・。

あらゆる角度からってことなんだね。
項目にある「特用林産施設」っていうのがよくわからないんだけど。

木材や薪炭の「林産物」以外の産物のことを「特殊林産」と呼ぶんだ。具体的には、木の実、樹皮、キノコ、薬品などだね。
それらを生産する林地、加工場などのことを指した言葉が「特用林産施設」。例えば、シイタケほだ場とかね。


「治山施設」はわかるよ。砂防ダムとか。

そのとおり。ダムだけではなくて、土が流れないように斜面に段や柵を作ったりもする。

「林道」は、森林の手入れなど、林業用の道のことだよね?

そう。森林管理や、伐採した木材を運搬するのに使う林業用途を主とする道路だ。
普段、われわれが使っている国道とか県道などとは、性格が違うものだよ。


「林地荒廃」と「森林被害」は、どう違うの? 同じもののような感じがするけど。

「林地荒廃」は、土が崩れたり流れたりという、土地自体が異常に荒れたものと考えればよいかな。
一方、「森林被害」とは、この表では、樹木が折れたり倒れたりした森林の面積を指しているようだ。


なるほど、林「土地」荒廃なんだ。

表には被害箇所の数で出ているから規模が把握しにくいが、山間部の森林でもいろいろ被害はあったはず。
ただ、山の森林の被害を面積的に考えれば、地震による森林の被害というのは、何haにも及ぶものなんてめったにないんだ。
木が折れたり倒れたりというよりも、土砂崩れや地すべりなど、部分的なものが多いからね。


・・・ということは、「森林被害」の項目にある1,065haっていうのは、ほとんどが津波に襲われた海岸林(→2011.4ちょっと教えて)ってこと?

そう考えられるね。
前に話した陸前高田のマツ林のみならず、青森県から千葉県に至る海岸線で大きな被害が出た。
津波浸水の海岸林の規模は3,700haで、そのうち75%以上の被害率、いわゆる壊滅的な被害に至った林は1,000haに及ぶとか。 


1,000ha・・・どれくらいなんだろう? 広いってことはわかるけど。

甲子園球場のグランドに換算すれば760個分、18ホールのゴルフ場でいえば敷地約10個分くらいだね。

そんなに・・・!
ずっと昔から三陸海岸を守ってきた海岸林だけど、今回のような大津波には無力だったんだよね。自分の背丈よりも高い波が襲いかかってきたんだもん。

そうだね。
ただ、本来、海岸林の役割は、高波・津波を防ぐための防波堤ではなく、主には潮風を和らげて、背後の農地や集落を砂や塩の害から守ることなんだ。
その海岸林が、三陸海岸では古くから立派につくられてきて、それが津波の被害からも農地や集落を守ってきたということなんだよ。
今回の地震では、津波が10mを超えたような場所では海岸林自体がやられてしまった。
しかし、波高6m超の津波が襲った八戸市市川町の林帯幅150mのクロマツ林は、自らも倒れながら、流されてきた漁船を10隻ほど食い止めた。
その背後の住宅地では1階は水に浸かったものの、破壊・流失は免れたという。そんな例もある。

守ったんだね、海岸林が町を。被害を小さくしたんだ。

森林総合研究所は、この実例について、もしクロマツ林がなかったらという仮説のもとモデル計算した。
その結果、海岸からこの林を通り抜けた350m奥の地点で、実際は浸水深3.1m・最大流速2.3m/秒という数字が、林がなかった場合、それぞれ4.4m、4.0m/秒に達すると推定できたという。
ここから、林野庁の「海岸防災林の再生に関する検討会」は、海岸林を「大規模な津波を完全に止めることは無理だが、津波のエネルギーを減衰させたり、漂流物を阻止するなど、被害の軽減には貢献」と評価したんだ。

森林総合研究所って、陸前高田の「希望の松」の接ぎ木に成功したんだよね。森林のあらゆることを専門とする国の研究所。
森林総研も林野庁も、今は震災に関連することで大忙しなんだろうね。

まだ調査中のところもたくさんあるだろう。
この農水省の資料は2011年8月現在だが、あれだけの震災だったんだ。状況がすべて判明したわけではなく、これからも数字が変わっていく可能性は大いにあるね。
何しろ、とてつもない大きな問題があるだろう?


福島第一原発の事故のことだよね。たくさんの人が故郷に帰れない状況だし、農産物・海産物への被害も心配・・・。
実際のこと以外に、風評被害っていうのもあるよね。

そう。放射能を浴びた土や森林をどうするか。これは本当に難問だ。
じぃじ先生も専門家として思うところがあるので、雑学ゼミで述べるとしよう(→2011.11森林雑学ゼミ)。


とにかく、重要なのは国の対応だよね。
きちんと調べて、ちゃんと方法を考えて、しっかり実行する。どうぞよろしくお願いします!




 

 

 

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