「ツバキはひっそり活けてあるのが、いいと思わない?」 byばぁば。
そうだよね。思う思う。
雪景色が似合うなぁ・・・。
え? これツバキじゃなくて、サザンカだったの!?
サザンカは、こう散る。
花びらが1枚ずつパラパラと。
こちらはツバキの「首落ち」。
花は、ガクから丸ごとポトリ。
ツバキ、品種いろいろ。
上から、「桃色雪中花」「玉垂」「菊冬至」。
京都府立植物園にて。
積雪対応型、背丈の低いユキツバキ。
滋賀・福井県境山門水源林にて。
雪国の孤立木、イメージ。
幹を中心に、右側が冬、左が夏。
『ことわざの生態学』より
|
|
ばぁばがツバキを活けてたよ。大好きなんだって。
うん、とてもいい雰囲気だね。
冬を代表する花、ツバキは、正式にはヤブツバキといって、日本原産。日本人との付き合いが長い木だ。
漢字ではどう書くか、知ってるかい?
木へんに春だよね。
そう。この字は、万葉集にある歌が起源とも言われる。
「巨勢(こせ)山のつらつらつばきつらつらに見つつ思(しの)はな巨勢の春野を」
本当の花期は、1〜2月の寒いときなんだが・・・。
だって、万葉集なら旧暦だもの。木へんに春でいいんじゃないの?
確かに、旧暦では、節分の翌日が「立春」だからね。
雪のなか、春に先がけて綺麗な花を咲かせるんだが、特にきれいなものを「寒椿」という。
雪の日に庭で撮った写真があるけど、これじゃないの?
おっと、この写真はサザンカだ。ツバキとは同属でとてもよく似ているが違うんだなぁ。
サザンカの花期は秋の終わり頃からで、ツバキよりは早いんだ。でも、我が家のサザンカは冬の最中でも咲いてくれるね。
あ、そうか。花が丸ごと落ちるのがツバキ、花びらの散るのがサザンカだっけ。
そういえば、この木は花びらがパラパラ散ってた。
よく覚えてた。そう、そのとおりだ。
ツバキは、花がぽとりと落ちる様子が「首落ち」と呼ばれ、縁起が悪いといって庭木としては敬遠されることもあるそうだよ。
そのほか、緑茶や紅茶のお茶の原料チャノキも、同じツバキ科のごく近い親類筋の属で、これもまたよく似ている。
ツバキもサザンカも、葉っぱがきれいだよね。花のピンクと、つやつやの葉っぱのグリーンが鮮やかで。
そう、厚めで小型、表面が光る「照葉樹」の代表例。
ツバキの名はあの葉からついたといわれているんだよ。厚い葉の木 → 厚葉木(あつばき) → ツバキ、という具合。
ツバキもサザンカも、チャノキも、全部暖温帯が郷土の、常緑広葉樹だ。
ところが、同じツバキ科でも寒いところ(冷温帯)に生えているものは、属の違う落葉広葉樹となる。
え? 同じツバキ科の木が、暖温帯か冷温帯か、生えている場所によって常緑だったり落葉だったり、性質が変わるってこと?
そう。冷温帯に育つのは、ナツツバキ(シャラ:沙羅の木)やヒメシャラだ。花は夏6〜7月に咲くよ。
え〜、なんか不思議。
じゃあ、ツバキが暖かい暖温帯の木なら、寒い東北地方とかには無いの?
ところがどうして、北陸、東北地方の日本海側にはずっとツバキが分布している。
どうして? 雪もたくさん降る寒いところじゃない。
・・・と思うだろう? ところが育つ理由が、それこそまさに「雪が多い」ことなんだよ。
積雪が深く冬の間地表を覆っていたら、その中は実は暖かい。0℃以下にはならないから、寒風吹きすさぶ外よりずっと温かく、ツバキは冬越しできるというわけ。
ほら、雪山で夜を明かすために雪洞を掘るといった話、聞いたことがあるだろう? また、かまくらの中も暖かいというよ。
あ、ヤマネだ。ヤマネはね、木のうろが見つからないときには、雪のなかで冬眠するんだよ。
そっかぁ、ツバキは雪の中なら冬を越せるんだね。
そう。だから、そうした地域では背丈が低い。積雪の深さよりも背が高くならないように、長年の間に低木化したんだ。
分類上も、ユキツバキという名でツバキの亜種扱いになっている。そして雪がなくなった4月以降に、花が開くんだ。
そういえば、小学校の教科書に、フキノトウの話があった。冬の間、雪の中で育っていたフキノトウが、春になって「よいしょ、よいしょ、重たいな。外が見たいな」って言いながら芽を出そうとするの。
あれも同じようなものかな?
フキノトウの芽が雪解けを待っているという話だね。
ツバキの低木化などとはちょっとちがうが、そのふきのとうは冬の間温かい雪のなかにいた、つまり 雪があるおかげで生育環境が守られていたとは言えるね。
雪が守ってくれるんだ。雪っていうと冷たいってことしか実感ないから、不思議な感じがするけどなぁ・・・。
確かにそうだねぇ。
そんな雪と植物の関係から取れるデータもあるんだよ。
雪国の孤立木には、樹木の上部は枝が片側だけ、地面に近い方は枝が四方に張ったものがある。
これは冬の間、地表近くの冬芽は積雪による暖かさで守られ枝は四方に伸びるが、積雪を突き抜けると、冷たい風で常風の風上側の芽は凍死するため風下側にだけしか枝が伸びない、というのが理由。
こうした成長の過程から、夏にこの木を見ると、冬の常風の方向と積雪深がわかるというわけだ。
気候に応じて木が姿を変える・・・。動物で言う、ベルクマンの法則みたいだね。
これはまた、難しいことを持ち出したなぁ。
うふふ。科学博物館で見たんだよ。
たとえば、同じ種類のシカでも、鹿児島と奈良と北海道でサイズが違う。寒いところの方が、体が大きくなるの。
植物の場合は寒いと小さくなるんだね。この法則と逆だなぁ。
よしよし、とてもよくわかる説明だ。
「積雪と低木化」とはちょっと違うが、哺乳類や鳥類では一般にいわれる現象で、植物でも、同じような例もあるよ。
フキ、イタドリなどは北海道では大きくなる。フキは雨傘の代わりになるほどだ。
雨傘の大きさってすごいなぁ。
気候によって木が姿を変えるっていう例は、他にもあるの?
あるある。いずれも常緑広葉樹で、ツバキ同様、雪の地帯で低木に固定化して、ユズリハはエゾユズリハに、アオキはヒメアオキに、モチノキはヒメモチに・・・。
それほど珍しいことじゃないんだ。
あ、高い山にあるハイマツはどうなのかな? 平地にあるのと、ちょっと違うよね?
確かに冬、積雪に守られているということには違いない。
でも、雪と寒冷、両方のおかげで長年の間に種として固定したもので、他のマツとは別種で、背丈は・・・。
低いんだよね。
高い山に生える松だからhigh 松・・・ではない。
しまった、言われたか。
うん。知ってるよ〜(笑)。
|