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2012.06
じぃじ先生 ちょっと教えて
 

新緑って、きれいだなぁ。

 

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2005年、愛・地球博の公式マスコット、
モリゾーとキッコロ。
この色使いって、やっぱり見事だと思う。







小さい頃、ばぁばに教えてあげたんだ。
「お山って、ひとつの色だけじゃないんだよ」って。ほら、ね?
京都府 京丹波町







うわぁ、なんか着物の柄みたい! 
黄色は新芽初めの頃のコナラ、緑はマツ。 
滋賀県 龍谷の森







落葉樹林の新葉展開は、まず下層の低木種から始まり、続いて中層、上層の高木種と開葉する。 
長野県 明科







このグリーンの濃淡、まさしく「青葉若葉」だね。
そして針葉樹の濃い緑も混じってる。 
京都府 南山城村







5月のクスノキは若葉ばっかり。
教えてもらってなかったら、落葉樹だと思っちゃう。 
京都御苑






青葉若葉の斜面、その山麓のタケの葉の交代、「竹の秋」。
ほんとに枯れたみたいに見えるんだね。
京都府 南山城村

 

 

 

近所の並木もいつのまにか新緑で、黄緑色一色。
キッコロがいっぱいいる(笑)。

そうだね。毎週、山陰線で京都林大のある和知まで通っているけど、車窓から眺める山の緑が鮮やかになってきたよ。
これから夏に向かって、木々は若葉を充実させ、光合成をさかんにするんだ。


どうして若い葉は黄緑色なの? 若葉以外は濃い緑なのに・・・っていうか、そもそもどうして色が変わるんだろう? 

葉にはそもそも、カロチノイドという物質がある。これが黄色系の色素を持っているんだ。
その後、光合成するための光や温度の条件が整ってくるにつれて、光合成をする葉緑素が増えてくると・・・。

葉緑素って、クロロフィルだよね? 

そう。光エネルギーを吸収する働きの化学物質。前に見せてくれた光合成のムービーでおなじみの、アレだ(→2010.12ちょっと教えて)。
クロロフィルは緑色だろう? これが増えると緑色が強まり、カロチノイドの黄色は徐々に目立たなくなる。そして光合成が盛んになって、さらに濃緑になるというわけ。


葉の色は葉緑素の量で決まるってことなのかぁ。
そのカロチノイドっていう物質は、なんのためにあるの?

組織の中のさまざまな分子を結合させる働きがあるといわれている。広く、植物にも動物にもあるものなんだよ。

ねぇ? カロチノイドって、抜けないの?

んん? 抜ける? どういうこと?

人の髪って、年をとると白くなっていくじゃない? でも、老木って色素が薄くなる感じ、ないんだよね。むしろ、幹の色なんか濃くなっていくイメージがあるんだけど。

ああ、そういうことか。なるほど、たしかにじぃじ先生の髪は白くなった。
でも、老木は白くならないよ。葉っぱについては、若い木でも葉緑素が抜けて白くなっているのを、ときどき見かけるけどね。木の年齢とは関係ない。
ただ、老木になれば、葉量が少なくなって光合成の能力は低下するね。


葉量が少なくなるって、若葉の量が減るっていうこと? 

そう。新葉(若葉)の発生量が低下していく、もっと厳密に言えば、木の老化にともなって、去年の葉量に対する今年の新葉更新量の比率が年々低下していく、ということだ。

そっかぁ・・・なんかちょっと寂しいな。
ところで、新緑が始まる時期は、樹種によって違うよね?

当然そうだ。一般に、高木よりツツジ類などのような低木の方が早い。高木の葉が開く前に少しでも光合成生産を稼いでおこうとするようだ。

なるほど、賢いな。で、光合成のはじまるタイミングには、サクラの開花みたいに、温度の積み重ねみたいな条件はあるの?(→2012.4ちょっと教えて/2012.5森林雑学ゼミ

あるある。気温に関しては、サクラやカラマツとルールは同じだよ。

だったら、サクラ前線みたいな、「新緑前線」予報も・・・。

ああ、もちろんできる。データから予想は立てられるよ。
しかし、「新緑前線」とは、なかなかいいなぁ。

でもやっぱり、サクラ人気にはかなわないんだろうね。
サクラって・・・あ、紅葉もだけど、昔から日本人は大好きで、歌や俳句にもたくさん詠まれてきたじゃない?
それに比べて、若葉を詠んだものはあんまりないような気がするんだよねぇ。

ああ、そうかもしれない。日本人にとって花といえばサクラ、山の木々といえば紅葉。どちらも華やかで色鮮やかだからかなぁ。
まぁ、新緑の頃はどんどん暑くなる時期だから、あまり歓迎されてなかったのかもしれないよ? 今も昔も、特に京都では、ね。

ああ、十二単はいかにも暑そう・・・。歌で愛でるような気分には、ならなかったかも。
ちょっと探してみよう。・・・あ、『奥の細道』に、そのものずばりの俳句があるよ。
「あらたふと青葉若葉の日の光」(芭蕉) 
青葉と若葉。カロチノイドの勝ち負けが注目されます(笑)。

あははは。こういう情景を、俳句季題では「山笑う」と表現するんだよ。
さて、こんなのはどうだろう?
「常磐木に色をわかばの薄萌黄おなじ緑の中に涼しき」(後水尾院)

「常盤木」って常緑樹のことだよね。常緑樹と落葉樹の新芽のコントラスト、お〜、美しい!

その常緑樹だが、常緑樹も春には新芽を出すというのは、前に話したとおり(→2009.11森林雑学ゼミ)。
スギやヒノキの針葉樹は古い葉の1/4〜1/5が秋に落ち、春につける新葉はその分だけなので、新葉の薄色はあまり目立たない。
一方、シイやカシなどの広葉樹(照葉樹)は1/2にあたる量の葉が交代するから、黄緑色も目立つだろうね。


クスノキは常緑樹だけど、春には若葉ばっかりになるんだったよね?(→2009.11森林雑学ゼミ

そのとおり。クスノキは特殊な例で、今年の新葉が開いた後に古い葉が全部落ちてしまう、総入れ替え制。だから、5月には若葉ばかりの姿になる。
一方、タケは5月ごろ一斉に落葉するのと同時に新葉を展開するのだが、一時期、枯葉ばかりの状況に見えることも多い。

だから、「竹の秋」は春の季語。あ、俳句といえば、ひとつ思い出したよ。
「分け入っても分け入っても青い山」(山頭火)
新緑の中、ただひたすらに歩いていくイメージ。どっちを向いても、黄緑と緑の世界っていうか。

歩いても歩いても、どんどん入っていっても、山はどこまでも続く・・・。
うん、たしかにそうなんだけど、この句は、俳句の完成にはまだまだ到達できていないとか、人生にもがいているとか、そんな心境をうたったものと解釈されているようだ。


じゃあ、この場合の「青」は緑のことではなくて・・・。

う〜ん・・・未熟とか、まだまだ到達していないといった意味。「青二才」なんかに使われる「青」なのかな。

なるほど〜。俳句は新緑の山のように奥が深いなぁ。




 

 

 

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