YOSHIYA TADAKI 's web site 森林雑学研究室 Stories of Forest Ecology


  もうすぐ祇園祭だね。

コンコンチキチンのお囃子が、あっちこっちで鳴っているよ。


そうだね、京都の夏の風物詩だ。
発祥は1200年以上前の貞観11年にさかのぼるという。



山鉾巡行は毎年7月17日。その前の夜には、宵山に行かなくちゃ。お提灯のともった山鉾の姿ってきれいで、見るのが楽しみなんだ。


山鉾が町を巡行するようになったのは、南北朝時代末期・室町時代だそうだ。650年前だね。
力をつけてきた京都の町衆が、それぞれの町内で競い合うように山鉾をつくったといわれる。
京都の職人技の集大成のような、その造形、装飾品の見事さは、まさに「動く芸術品」。山鉾のいくつかは重要有形民俗文化財に指定されているんだよ。



巡行の行事は、ユネスコ無形文化遺産にも登録されたんだよね。
その山鉾だけど、何の木でできているの? やっぱりヒノキかな? 
でも、巡行するんだから、簡単に傷がついちゃうような、柔らかいヒノキではダメだよね。


もちろんヒノキが多いようだが、マツやカシも組み合わせて使われているそうだ。
マツは、曲げに対抗する力が強くて、住宅の梁にもよく使われている。奈良の大仏殿の梁材は、日向の国で見つけてはるばる運んだという記録もあるよ。
重さが集中する場所には、カシが向いている。



あ、カシって堅い木だったよね、それだけ強いってことかな。じゃあ、車輪は?


それそれ。じぃじ先生としてもそこが疑問で、深見茂さんという、以前に山鉾連合会理事長をされていた方にうかがってみたんだ。
すると、車輪もカシで、それもアカガシを使うというお答えをいただいた。



うわぁ、それはすごい確実な情報だぁ。深見さん、ありがとうございます!


本当にね(笑)。
何しろ、国の重要有形民俗文化財の指定を受けている山鉾だから修復するときもそれまでを踏襲せねばならず、この部位にはこの樹種を使う、と決められているのだそうだ。
ちなみに、石持という車輪を支える部分には、サクラやクロマツ、ケヤキなどが使われているみたいだね。



いろいろな材でできているんだ。特性に応じた使い方・・・じぃじ先生がよく言う「適材適所」だね。


その山鉾だけど、鉾と山があるのを知っているよね。


もちろん。大きな長刀鉾や月鉾が有名だけど、山にもカマキリのからくりがある蟷螂山とか、弁慶と牛若丸が乗ってる橋弁慶山とか、面白いものがたくさんあるよね。


ああ、その二つの山はちょっと特殊だね。
というのは、他の山には、山の上にマツの木が立ててあるんだ。それが神様の憑代になっていて、真木というんだ。



そういえばあったような・・・でも、よくわからない。正直、カマキリは見ても、他の、あんまりしっかり見てない・・・。


あははは。正直だ。小さい頃から好きだもんなぁ。
数ある山の大半はマツで、一部はヤナギを立てているんだが、ただ1基だけ、スギをあげているものがあるんだ。
太子山といってね、油小路通仏光寺の、その名も太子山町に立つ山だ。


結構、南の方だね。それは見に行ったことがないなぁ。


お祀りしているのは・・・ほら、太子といえば?


えーっと・・・聖徳太子?


そう。じゃあ、聖徳太子の建てたお寺と言えば、法隆寺と・・・。


大阪の四天王寺!


そう。京都にもあるよ。六角堂(紫雲山頂法寺)というお堂だ。
四天王寺の建立にあたって、建材を求めて各地を回っていた聖徳太子が京都に来たとき、杉の霊木で、六角堂を建てたという言い伝えがある。
これにちなんで、太子山では山に立てる真木にスギを使うという。



なんでスギだったんだろう? お寺建築といえばヒノキっていう感じがするんだけど?


六角堂の場合は、「霊木」というところがミソ。「霊木」となれば、これはやっぱりヒノキよりはスギ。貫禄の差かな。


なるほど。でもやっぱり、日本人はマツが好きだよね(→2010.1ちょっと教えて)。他にもたくさんある山の大半がマツなんでしょ?


日本人は確かにマツが好きだな、うん。ただ、そのマツが最近、なかなか手に入らないらしい。


え? 祇園さんの山のためのマツが?


そう。山の中心に立てる樹木(真木)としては、主幹がすっと伸びて枝振りの良いものだろうが、いろいろある昔からの条件が、現代では難しいのかもしれない。
そんなマツ、昔はどこにでもあったんだがなぁ・・・最近では、マツの数そのものがぐっと減ってしまった。



あ、そうか。マツが減ったのは、日本人が里山を使わなくなって土が肥えてしまったのと、マツクイムシのせいだったよね。(→2010.1ちょっと教えて


そう。京都市周辺も例外でなく、昭和30年代以降には広葉樹類の進出によってマツが圧迫され衰微、昭和40年代から始まったマツ枯れが拍車をかけた。
マツクイムシ、すなわち、マツノザイセンチュウの被害の拡大だ(→2010.1,2010.2森林雑学ゼミ)。



被害の話は前にも聞いたけど、その後、まだ続いているの? 


もちろん、今なお盛んだよ。現在は、青森にまで至っている。
昭和30年代、九州に発して以来、第2波、第3波・・・と繰り返し、マツは激減したんだ。
8月16日の大文字で燃やすマツ材についても危機状態、という報道があるくらいだよ。


ええっ!? 祇園祭と大文字、京都の夏の2大イベントなのに!


ほんと、そうだね。
祇園祭に使うマツは、聞いたところによると、以前は京都周辺で伐り出していたが、7~8年前からは、滋賀県で調達しているらしいよ。
加えていえば、さっきの深見さんのお話では、車輪のアカガシも入手困難で、九州の霧島山系にまで求めに行くこともあるようだ。



深刻だなぁ。
いっそのこと、全部スギにしちゃうっていうのはどう? 京都には、北山杉っていう名産があるんだから。


おいおい、さっきのお話を思い出して。「国から文化財認定を受けているから・・・」ってところ。


あ、そうか。木の種類は、簡単には変えられないんだった。千年の歴史に軽々しいこと言っちゃいけないね。反省反省。









お提灯がともる鋒をながめながら、お囃子を聴き比べる…やっぱり“宵山”が好き。




上の方に見える葉は榊。八坂神社のお祭りだから、神様へのお供えなんだって。






月鉾の鉾建て。手前の大きなものが石持、車輪は最後に取り付けるのでまだ出ていない。




焼失して150年の大船鉾は、復興計画実施中!




これがお気に入りの蟷螂山。
見て見て、上にカマキリのってます。




マツをあげた山。「都名所図会」(江戸時代)より。




右側が、スギの太子山。白い衣は、聖徳太子。
老舗人形店のウィンドウで発見。




函谷鉾の全景。高さはいったい、ビル何階分? 




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