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2012.08
じぃじ先生 ちょっと教えて
 

ヤナギの下には幽霊が・・・。

 

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夕暮れ時、いかにも「立っていそう」な感じ・・・。場所は、京阪電車のその名も「出町“柳”」駅界隈。



ヤナギといえば、やはりコレ。皆がイメージする、シダレヤナギ。(京都府立植物園)



湿地を好まないバッコヤナギ。
山腹の崩壊地などに先駆種として育つ。葉は広い。(大阪・金剛山)



キヌヤナギの葉は、その名にふさわしく、華奢で細い。水辺を好むけれど、枝は垂れない低木。(京都府立植物園)



低木のイヌコリヤナギの葉は幅が広めで、これは斑入り。行李の原料のコリヤナギとは違うもの。「イヌ」は「似て非なるもの」という意味。



春先、毛状の花穂で有名なネコヤナギ。
この葉もちょっと幅が広め。



高木のアカメヤナギは、丸い葉にしっかりした枝が特徴。 元気一杯の姿は、シダレヤナギと同属とは思えないなぁ・・・。



ポプラが親戚だとは・・・まさかの話でオドロキ。



祇園祭の北観音山。ご祭神は楊柳観音。
マツでなくスギでもなく、ヤナギを掲げていました。



晩ごはん前にパチリ。
せっかくなので、ヤナギを敷いて。

 

 

 

毎日、暑いねえ。

涼しくなるために、怪談や肝試しなんてどうだろう?

幽霊かぁ。
あ、幽霊といえばヤナギだよね。川べりに生えているヤナギの下に、額に三角つけた白い着物姿の女の人が・・・。

あははは。そうそう、川岸で揺れるシダレヤナギ(枝垂れ柳)と幽霊の取り合わせはいかにも涼しくて、絵になるね(笑)。
ヤナギといえば誰もがイメージするシダレヤナギは、細長い葉が特徴だ。
中国原産で遣唐使が持ち帰ったとされている。

中国産なの? ちょっと意外だなぁ。しかも遣唐使かぁ。歴史が古いんだ。

だけど、ヤナギ属というのは、実は世界に300種くらいあって、シダレはその一種にすぎないんだよ。
実は万葉集にも、「うち上る佐保の川原の青柳は今は春へとなりにけるかも(大伴坂上女郎)」など歌われている。

万葉集って、奈良時代だよね。じゃあ、遣唐使より前だよね。

そう。だから、その歴史は定かではない。
遣唐使ウンヌンという真偽はわからないし、万葉の歌の「青柳」がシダレヤナギをさすのかどうかもわからない。そもそもシダレ以外にも、ヤナギは、わが国自生種も数十種あるだろうからね。
それはともかく、ヤナギといえば日本人との付き合いは深い木で、民俗、習慣の中にさまざまだ。
柳腰、柳眉、柳に雪折れなし、柳の下の泥鰌なんて言葉、聞いたことがあるだろう?
木材としては、まな板、碁盤、柳行李、柳箸、経木のほか、燃料用途なども多々あった。

私もちょっと調べてみたんだけど、ヤナギには解熱鎮痛作用があるんだって。歯痛止にも使われたみたいだよ。

お、そんな薬効もあるのか。それは知らなかったなぁ。

ところでヤナギって広葉樹だよね。葉っぱは細長いけど。

もちろん広葉樹、そして落葉樹。高木種もあれば低木種もある。
ヤナギ科の中を大きく分けて、ヤナギ属Salixとハコヤナギ属Poplus。
ヤナギ属には、シダレヤナギ、ネコヤナギ、コリヤナギ、アカメヤナギ、バッコヤナギ・・・。
ハコヤナギ属は、国内種ヤマナラシ、ドロノキ、外来種のポプラ(セイヨウヤマナラシ)などなど。

え? ちょっと待って。ポプラ・・・?

そう。並木のきれいな、あのポプラ。あれはヤナギと親類関係なんだ。

ヤナギとポプラが親戚!? ポプラはシャキッとしているじゃない! 

それはシダレをイメージするからだろう? 
話したようにヤナギは約300種。シダレはそのうちの一種にすぎないんだよ。
そうだなぁ・・・大きく「柳」と「楊」に分けられると考えるといいだろう。

「柳」と「楊」? どう違うの?

もともとは、枝の垂下するものを「柳」、そうでないものを「楊」、あるいは葉の細長いものを「柳」、丸みを帯びたものを「楊」と使い分けたようだ。

あ、じゃあ、ポプラは「楊」の方ってこと?

そう。白楊、楊樹・・・。
ハコヤナギ属の葉は丸型なので、「楊」の字を使うものが多いようだね。

そうか、それならポプラがヤナギと親戚っていうのもわかる気がする。

もうひとついえば、水辺のものを「柳」、乾燥地のものを「楊」と言い分けていた様子もあるよ。
シルクロードのオアシスの樹は「楊」の方。

同じ水辺でも、オアシスの方は「楊」で、川べりの方は「柳」ってことだね。
そういえば、前に、農地の治水の勉強をしたときに、用水路の脇にはヤナギを植えることが多いって習ったよ。

そう。なぜよく使われるか知ってるかい?

うーん・・・川べりに踏ん張って立ってる姿からすると、水に強いのかな。

そう。いわゆるヤナギは、他の樹種では育たないような湿った土地にも、しっかり根を張って土を支えるんだ。
またそんなところで、粗朶(そだ)からも発根しやすい。

粗朶って?

切り取った木の枝のこと。それを束ねたものを土木工事などに使うんだよ。
川の護岸に使われる「柳枝工」という工法があるんだが、ヤナギなど水に強い樹木を生のまま材料にして杭を打ち、杭の間を枝で柵状につないで、その中に土石を積んで堤防にするというものだ。
枝材で籠状のもの(柳籠)を作る場合もある。
そうすると、ヤナギの杭や枝条からも発根して、堤防の緑化が進む。
土止めが、すなわち造林ということになるんだ。ヤナギの性質を積極的に利用した工法だね。

盆栽でも、挿し木でどんどん増やすんだってね。たくましい〜。

そう、特に発芽力が強い。
和歌山藩では、江戸時代のはじめに大がかりな治水工事が行われて、その名も「柳堤」というものがつくられたそうだ。
ヤナギを使った治水工事や堤防の補強はあちこちで行われたよう。景観としても好まれたと思うよ。

景観は大切。「柳」の方は、やっぱり川岸で揺れていてもらいたい。

幽霊のためにもね(笑)。
もっとも、「柳」「楊」の区別はいつの頃からかなくなって、「楊柳」というように熟語的に合わせて使うことも多くなったようだ。
祇園祭(→2012.7ちょっと教えて)で、北観音山を見たよね? あの山のご祭神は「楊柳観音」だ。

ああ、そういえば、ヤナギが山に載ってた! 

そうそう。あの観音様はヤナギを手にしているんだよ。

そっかぁ。
あ、さっきね、台所でシシャモを見たの。「柳葉魚」って書くんだね。

これはまた、おもしろいものを見つけたなぁ。
そうだそうだ、確かにそう書くね。

その由来って、アイヌの伝説らしいんだ。
昔、飢饉のときにフクロウの女神が柳の枝を川に流したら、その葉がシシャモになったことから「柳葉魚」って書くようになって、それをアイヌ語読みした「ススハム」がなまって、「シシャモ」になったらしいよ。

ほほぅ、そんな話があるのか。なるほどね。

確かに、シシャモとヤナギの葉っぱの形、似てるよね。

おっと、あぶない。さっきの話をもう一度思い出してごらん。
しかも、アイヌの伝説だろう? 時代的、地理的に、シダレヤナギかどうかは・・・。

あ、他の種類かもしれないんだった。
シシャモに気を取られて忘れるところだった〜!








 

 

 

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