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2016.01
じぃじ先生 ちょっと教えて

森林をつぶしてメガソーラーを・・・?



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東京ドームの建築面積は46,755m2。
100haって、これが、21.4個分!? ひ、広い・・・。

 

 

 

 


メガソーラー建設予定地・・・の、近くの雑木林。

建設予定地もこういう風景なのかな。

 

 

 

 

 
雑木林といえば、コナラ。

こういう雑木林は、昔は薪炭林だったのが多いみたい。

 

 

 

 


京都府庁の屋上にもソーラーパネルがある。

こういうパネルが、100haにずらーっと並ぶのかな。

 

 

 

 

 

家の屋根の上にも、小さいけど。

設置している家、最近増えてきたよね。

 

 

 

 

 

ショッピングセンターの屋上にもソーラーパネルがたくさん! 

たしかに、広くて平らで、ちょうどいいのかも。

 

 

 

 


砂防ダム。

流れてきた土砂をためて、斜面をゆるやかにすることで、土砂崩れと浸食を防止してるんだって。

 

 

 

 


山の空気が気持ちいい!

この感じは、森林以外では感じられないよね。

 

 

 

 


南山城村の広葉樹林。
森林は、電気は生まなくても、二酸化炭素を吸ってるんだけどな・・・。


じぃじ先生、新聞にらんでどうしたの?

うん、ちょっとこの記事(→2015.12.19京都新聞)を読んでごらん。


ええと、「南山城村で100haの山林をメガソーラーに開発」?
メガソーラーって、広いところにソーラーパネルをずらっと並べた太陽光発電の施設だよね。

そう。太陽光発電は化石燃料代替の電源として期待されて、今あちこちで盛んだ。
そのうち、出力1,000kW以上の大規模なものをメガソーラーと呼ぶのだが、それを、京都府の南山城村と三重県伊賀市にまたがる地域に造ろうという計画があるという。


その建設のために、100haもの森林を伐採するの? しかも山を削ったり埋めたりして地形までを変えてしまうって?

そうなんだ。あのあたりは、今は少なくなったがアカマツと、コナラ、クヌギなどの雑木林が広がっている、いわゆる里山地帯だ。


そんな大がかりなことをすれば生態系が変わっちゃうんじゃないのかな。生態系が健全でなくなれば、人間が受けている生態系サービス(→2011.2森林雑学ゼミ)にも、当然影響が出るよね。

もちろん出るさ。まぁ、対策は講じられるようだがね。
ただ、そのあたりも大きな心配事には違いないんだが、それより何より、どうにも腑に落ちないことがある。
そもそも自然エネルギー推進の目的って何だろう?


え? 発電にともなう二酸化炭素排出量を削減して地球温暖化を防止すること、じゃないの? 
太陽光発電は二酸化炭素発生量がゼロだから、有効な自然エネルギーの代表格で・・・。

そうだね。石油や石炭を燃やして発電する火力発電と違って、太陽光は二酸化炭素を出さずにエネルギーをつくることができる。そこは間違いなく重要で評価すべき点だ。
では森林はどうだろう?


どうって、もちろん発電はしないけど・・・。あ! 二酸化炭素を吸収するんだった!(→2015.1ちょっと教えて2012.32015.2森林雑学ゼミ

そのとおり。森林には二酸化炭素を吸収して蓄積する働きがある。
1997年締結の京都議定書で、わが国は二酸化炭素の排出量削減目標を6%(1990年排出量と比較)と世界に約束したが、そのうち、3.8%は森林の吸収に依存したものだった。


森林を伐採してしまったら、吸収量はゼロになるよね。

そう、そこが引っかかるところだ。今まさに二酸化炭素を吸収しているのに、その働きをわざわざゼロにするってことだろう。
「地球温暖化防止を目指す自然エネルギー開発のためなら、森林をつぶしてもいい」という考え方に、どうも納得がいかないんだよ。


なるほど、パラドックスだなあ。まるで、サンゴ礁をつぶして水族館をつくるような感じ。

おっと、それは言い得て妙だな。
さらに言うならね、森林に申し訳ない気持ちでいっぱいなんだよ。
これまで頑張って人の暮らしを支えてきてくれた森林から「恩知らず」と言われそうな話に思えて、やりきれないんだなあ。


長年森林を研究してきたじぃじ先生ならではの嘆きだね。
でも、ちょっと待って。森林のままでは電気は得られないよね。

それはそのとおりだ。二酸化炭素を出さない発電は大切。そこに反対はしないよ。
だけどね、現に大いに働いているものをつぶしてまで造らなくてもいいじゃないか。海面とか、休耕田とか、ゴルフ場跡地とか、場所は他にいくらでもあるだろう。


うん。でも、それだとこの場所には、発電した電力を売って得られるはずの収入は入らないことにならない?

そりゃあ、直接の金銭収入のことを言うなら、この計画は圧倒的に有利だろう。
でも一方で、日本の森林の経済効果は、木材収益以外に70兆円を超えると言われている。それも計測や換算が可能なものだけに限ってだ。


70兆円!? それって国家予算みたいなレベルの金額じゃない!

しかも、その70兆円分は、誰も支払っていない。森林があることによって、あたりまえに我々が享受しているものだ。


ん? どういうことだろう。仕組みがよくわからないんだけど。
そもそも70兆円って、どういう計算から出ている数字なの?

これはちょっと説明が必要だ。
1972年、じぃじ先生がまだ農林省の林業試験場にいた時代、林野庁から、森林の経済効果を計算せよと言われて試算したことがある。


ちょっと待ってよ。そんな計算なんてできるの? ちゃんと数字化できるもののように思えないよ。

それをやったんだよな。


あ、なんか自慢気だ(笑)。・・・で、その方法は?

たとえば、森林の持つ水源涵養機能。
まず、日本中の森林の土の中に、水を貯め込める空隙がどれくらいあるかを計算で割り出す。そしてその穴に貯まる水量と同量の水を貯めるにはダムがいくつ必要かを考え、その建設費用を計算した。


ダムの建設費用なら具体的な数字が出せるってことか。ダムといえば、砂防ダムもあるよね。

もちろんだ。森林が食い止めている土砂崩壊流出量を砂防ダムで防ぐとしてその建設費はどれくらいになるか、を出したよ。
その他、森林でつくられる酸素の供給量は樹木の生長量から概算できるから、それを工場渡しの酸素ボンベ何個分相当だとか、森林にすむ鳥が害虫である毛虫を駆除することで採れた良質の材木では住宅が何軒建つのか、とか・・・。


うわ、ちょっと気が遠くなってきた・・・。

あはははは。そんな計算を5つの働きについて、ひとつひとつ計算した結果、12兆8,000億円と出た。
その後しばらくは、この計算をもとに物価スライドして39兆円とされていたが、2001年に日本学術会議が新たな試算を発表した。
このときはすでに地球温暖化防止が大きな問題になっていたので、二酸化炭素吸収量ほか、新しい項目を加えて8項目となり、算出されたのが、さっき話した70兆2,600億円という金額だ。


結構、具体的なんだね。ちょっとこじつけっぽい気もするけど。

もちろん無理は承知の上だよ。そもそも計測・計算できないものをお金に換算しようというのだからね。
名画『モナリザ』の価値を、キャンバス代と絵具代にダ・ヴィンチの日当の合計だと言っているようなものだ。


それは無理やりすぎるよぉ。でも実際はそういうことなんだね。確かに「森の空気が気持ちいい」とか「山の緑を見ると落ち着く」とかの、目に見えない効果は数字で表せるものじゃないもの。

数字化なんて至難の業だろうね。でもそれこそが本来の森林の効用だ。だから、実際の経済効果は70兆円どころじゃないということになる。
しかし現実には、森林の経済価値は産出する材木の金額だけで評価される。それも、安い外国産木材に押されて下がった金額で、だ。


実際にお金を生む分だけってことなのか。だから、南山城村も、森林のまま置いておくより発電所を、ってことになっちゃうのかな。わかりやすい具体的な“価値”が生まれるから。

それが現実と言うものかもしれないね。
これまでの例でいえば、森林を壊してゴルフ場を造る、宅地開発をするというと、自然破壊だという反対運動が起こったものだ。
でも昨今、自然エネルギー開発のためというと、その反対の声が弱まるというか、極論を言えば、何をしても許されるような風潮が社会にあるように、どうも感じるんだよ。


自然エネルギー開発も森林保護も、どっちも温暖化対策になるのに・・・。こういう議論を見ていると、なんだかちぐはぐで、本質のところが置いてきぼりになっているように思えちゃう。
地球規模の問題解決のためには、ありとあらゆる要素の本質や関係性を正しく把握しなきゃいけない。地球に住まわせてもらっている者として、きちんと。



 
 


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