森林税っていうのがあるんだってね。 なんか、ひどいなぁ。ただでさえ林業の経営って厳しいのに、その上さらに税金だなんて・・・。
ひどい? ん? もしかして勘違いしていないか? 森林税を払うのは誰だと思っているのかな。
山林を持っている人でしょ? 固定資産税だっけ? 土地とか家とかを持っている人が払うじゃない。 ロシアのピヨートル大帝のヒゲ税もそうだったよね。だから・・・。
おっと、違う違う。森林税を払うのはその地に住む人たち皆だよ。
固定資産税なんかとはまったく別の発想のもの。 森林の保全管理を、そこに住む人みんなで支えることが目的だからね。厳密には、森林環境税というんだよ。
え? 森林の持ち主にかかるものじゃないの? それなら、ちょっとホッとしたぁ。
持ち主に負担が強いられるなら、「こんなに税金がかかるなら、森は売っちゃえ。開発しちゃえ」って方向に進むことになるんじゃないかって、心配だったんだよ。
う〜ん・・・やっぱり社会にはあまり広がっていないのか。 きっと、こういう認識が一般的なんだろうな。じゃあ、ちゃんとおさえていこう。
お願いします!
では、まずは森林の働きのおさらいだ。
森林が、材木を生み出すばかりでなく、様々な環境提供、文化形成などを通じて、人間生活に役立っていることは、これまでも扱ってきたね(→2010.6、2011.2森林雑学ゼミほか)。
そう。二酸化炭素の吸収源として認められるため、また人間生活環境を守る働きの能力を発揮・維持させるためには、森林に対して人為的な管理が不可欠であることはわかるね。
山はきちんと管理しないと大変なことになっちゃう。戦後の拡大造林後、人工林の管理も問題になっていた(→2010.8森林雑学ゼミ)。
あれは切実な問題だ。森林の効用を望むなら、手入れ・管理作業そのもの、またそれらの必要性についての国民への教育、啓蒙普及などが必須だが(→2010.10森林雑学ゼミ)、となれば、当然・・・。
お金がかかる! あ、森林税って、そのためのものなのか。
そのとおり。だから森林“環境”税なんだよ。そこに住む人々が納める税金に広く薄く上乗せして集めよう、というものなんだ。
京都府や大阪府では2016年度から導入する予定だが、都道府県レベルで見れば、2003年の高知県、2004年の岡山県をはじめ、すでに35県で制度化されているよ。
その税の用途、具体的にはどんなものがあるのかな。
まぁ、あれこれいろいろだが、やはり多いのは間伐とその材の利用、里山の整備、森林環境教育・啓蒙、ボランティアの支援、木製品の利用あたりだろう。 地域ごとの発想で、森林浴、チェンソーアート、林内歩道ウッドチップ敷き、なんかもある。
当然、県によって使い道が違って、特色も出るんだろうね。
そう期待はしたいが、そこはなかなか難しいかもしれないな。
県民の希望といえば恐らく、水資源の涵養や土砂の流出防備といった公益的機能よりも、保健休養やレクリエーションなどの、より身近な森林機能だろう。
でも、県の予算には限りがある。 さしあたっては、目に見える具体的な事業の実行が主体にならざるを得ないだろうね。
今、実施している県では、受け入れられているの?
導入当初、いわゆる森林県と呼ばれる該当地で聞こえてきたのは「森林があるから税金? じゃあ、無ければ無税?」「森林など持っていない者も納めるのか」「森林県だから? 森林の恩恵は、川下の県の方が大きいはず」といった声。
ああ、わかる。私がはじめに持っていたイメージと同じだ。 そういう不安や不満、誤解の声があがるっていうのは、やっぱり説明が足りないんだよ。大事なことなのに。
手厳しいなぁ。でも、まったくそのとおりだ。理解を求めて詳しく説明していくことは、今後も継続すべき重要な課題だね。
その一方で、今や35県が実施しているということは、その必要性がある程度理解されたと言うことができるのではないかな。 納税者の負担額が、1人あたり年500〜1,000円という比較的低額だったことも、大きな反対が起こらなかった理由かもしれない。
ちょっと待って。素朴な疑問なんだけど、その程度の金額で、各県の森林管理の経費はまかなえているのかな。
とてもとても、まったく足りないさ。国からの各種補助金も使って、やっと、といったところだろう。
やっぱりそうか。 う〜ん・・・。森林環境税って、県単位の税金だよね。でも、森林は複数の県にまたがっていることが多いし、水や景観、環境だって、県内だけでおさまるような話じゃないと思うんだけど。
たとえば水道水。私たちはごく日常に使うけれど、それって、水源に豊かな森林があって、それを誰かがお金と手間をかけて保全してくれているからこそできること。
そうした手間とか負担を、森林のある県にだけゆだねるのは、なんだかおかしいよ。
これはいい。的を射た視点だ。 実は今、政府ではこの問題を各県ではなく国全体のこととしてとらえ、森林環境税を国税とし、広く国民から徴収して市町村の森林整備事業に供する、ということを、まさに検討しているところだよ。
ああ、よかった! 動きはあるんだね。
ただね。この点、じぃじ先生も基本的には賛成なんだが、同時に幾つか心配もあるんだ。
国レベルの税金となれば、また反対論も増えるだろう。国土の2/3が森林のわが国だけに、森林を「木の生えている未利用地」と見る人はまだまだ多いからだ。
森林なんて無駄なものがあるから税金がかかって困る、だったらお金を生む何かに開発を、っていう人が出そうだね。
地方税と国税との2本立てになりそうな点も気になる。 地方自治体には、地域の特色を活かす方策と国の方針との間で、資金の使い分け・運用区分での苦労が増えることだろう。
何より、2本立ての税金というのは納税者にとってイメージがよくないよ。
そうなんだよなぁ。「森林環境税」という名称も重々しいというか硬いというか・・・。
既設の地方税では、2/3以上の県で、「水と緑の税」「森づくり税」「緑税」といった、柔らかな名前にしているよ。京都府も「豊かな森を育てる府民税」だ。
でも、やっぱりどれも「税」なんだ。もちろんそうとしか言いようがないんだろうけれど。
たしかに歓迎される文字ではないね、「税」って。
そういえば、昭和の終わりに構想された「水源税」。名前が不人気だったのを覚えているなぁ。 国レベルで水道用水や工業用水などについて税金をかけ、水源にまつわる環境整備の費用としようという案で、結局は廃案になったけどね。
ねぇ、いっそのこと課税対象を、森林を持っていなくてサービスを使うだけの人に絞ったら? 保全作業をしてくれる人も含めて全員にかかるのは、理不尽な気がする。 使う人が納め、そのお金を森林県に還元して、整備作業を充実させたらいいんじゃないのかな。
それは、まさしく本質だね。理想と言えるかもしれない。
しかし、考えてごらん。森林を所有する人と比べれば、持たない人の方が圧倒的に多いし、森林の所有形態・規模もさまざまだろう? となれば、一律の方が扱いが簡単でわかりやすい。「森林の恩恵」を受けているのは、国民全員なのだから。
そっかぁ、難しいか。皆にとって最良の方法のように思うんだけどなぁ。
難しいけれど、「最良」を追い求めてはいきたいね。 少なくとも議論を尽くして正しい認識を広げ、皆が納得できた上での税制であって欲しい。国民のためにも、森林のためにも。
まずともかくは、私がしたような思い違いをなくすこと! 森林が悪者になっては、元も子もないんだから。反省も込めて勉強しなきゃ。 そして、じぃじ先生も、関係者の皆さんも、とことん説明に努めてくださいっ!
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