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2017.01
じぃじ先生 ちょっと教えて

植物園のラベルってどうやってつくるの?



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京都府立植物園バラ園にて。





淡路島 奇跡の星の植物館にて。





漢字では「落羽松」 紅葉がきれいでその時期にはみんな名前を知りたがるんだって。ラベル大事だなあ。 武蔵丘陵森林公園にて。











おなじみの京都府立植物園にて。名前だけのあっさりパターン、シリーズ風の紹介、説明多め、まさかの手書き……。





奈良の万葉植物園。和歌が書いてある。植物と万葉集の両方が勉強できちゃう。





その森にやってくる蝶の種類がわかる。狭山丘陵の八国山で、ハイキングコースにて





こちらもおなじみの木曽赤沢。合体木についての説明。









温室の説明板、クスノキの保全に関する説明板、多言語の看板。
いずれも京都府立植物園にて。







琵琶湖博物館の森の展示の説明板。


バラ園にあったこのラベル。「日本作出」ってあるけど、どういう意味なんだろう。園芸種って「産出」じゃなくて「作出」っていうの?

いや、ここでは単に、「輸入した品種」ではなく、我が国で交配などによって「作り出された」園芸品種という意味で書かれているのだと思うよ。


あ、そういうことか。このあいだ淡路島の植物園で見たラベルには「原産地」って書いてあったよ。

お、これはおもしろい。植物の説明以前に、説明書きのラベルの見方そのものを解説しているんだね。親切にできているなぁ。
ラベルには、日本の植物園なら、まず「和名」。その他、所属の「科名」、「産地」、「学名」などが記載され、さらに必要に応じて、その種について特筆すべき特徴、原産地での様子、発見の経緯、歴史的な挿話などがつけられる。
ちなみに最初に出てきた「花音」の例は、バラ園でのラベルなので「和名」は省略して、品種名のみ記載されているんだろう。


この「花音」みたいな札も珍しくはないけれど、生物の名前ってカタカナ表記が原則。それはどうしてなのかな。

簡単に言えば、識別しやすいようにということだ。漢字−ひらがな書きの文の中で埋もれてしまわないように。


ああ、確かに目立つね。でも、それなら昔は? 漢字−カタカナ書きでしょ?

いいところに気がついた。以前はね、実はひらがな表記だったんだよ。戦前は学術論文も漢字−カタカナ書きが一般的だった。だから、論文の中の生物和名は、地の文のカタカナから識別しやすくするため、ひらがなを使ったんだ。
戦後、国語改革で旧来の表記法がひっくり返ったことから、学術的に使われる和名はカタカナ表記に。それが常識化したというわけだ。


今とは逆の理由なんだね。
植物の札って、名前のほかに学名も書いてあるよね。このパネルによると、学名は属名と種名からなる、万国共通の名前で・・・。

生物の呼び名は、世界各国各地で固有のものがあるだろう? 同じ種でも国・地域によって異なるし。


難波の葦は伊勢の浜荻・・・みたいな?

お、いい言葉を出してきたな。
そう、そのとおり。 たとえばヒノキ。これは日本での名、英語圏の国での呼び名はjapanese cypress、で、世界共通の学名はChamaecyparis obtuseだ。
ブナについては、日本ではブナ、英語圏ではbeech、ドイツ語圏では、Buche、、学名はFagus crenata。


うわ、結構違うんだ。音もあまり似ていないんだね。

そうなんだよ。だから、学術上の利便性から、生物に世界共通名をつけることは、とても重要で必要なことなんだよ。


そうか、呼び名がバラバラでは、国際会議が成り立たないものね。その重要な学名って、どうやって決めているんだろう。

命名自体は、誰がしてもいいんだよ。発見者でも研究者でも、その種に関連する者が名づけ親になり、学会に報告して登録されるんだ。
ただ、命名にあたっては国際的な規約がある。


規約?

18世紀、生物学者・リンネが創出した方式がもとになっていて、二名法、ラテン語、イタリック体で記載、属名(ファーストネーム)については、頭文字は大文字、種小名(セカンドネーム)は小文字で形容詞が原則など、がルールだ。命名者名は、普段は使わないことも多いが、最後につけることになっている。


二名法ってなんだろう。

人間の「姓と名」みたいに「属名と名前」を表記するということ。「属名とその種固有の特徴」になることが多い。
植物の学名は原則ラテン語で・・・。


ラテン語? 植物学にラテン語は必須? じぃじ先生、まさかラテン語できるの?

そりゃあ当然・・・とカッコつけたいところだが、いやいや、全くできないよ。しかし、『植物学ラテン語辞典』というものは持っています。ここまでの答えも、実はそれをちらちら見ながら・・・。


ああ、びっくりした。それで、えっと、いろいろあったけれど・・・。

具体的に説明しようか。まずはさっき話したヒノキ。正式な学名は、Chamaecyparis obtuse Endl.という。Chamaiは「低い、小さい」、cyparisは「欧州のイトスギ」、obtusaは「鈍頭の」の意味で、Endlは命名者名だ。
またブナは、正式な学名をFagus crenata Blume.といい、Fagus はギリシャ語のphagein「食べる」に由来するという。crenataは「(葉が)円鋸歯状の」、Blumeは命名者名だ。


形状なんかも盛り込まれているんだね。

いわば、植物のプロフィールだからね。ハイマツPinus pumilaでいえば、Pinus(属名)のpinは「山」の意味のラテン語、pumilaは「背が低い」の意味。


そういえばキューガーデンにあったエンジュのラベルの学名、Styphnolobium japonicumは、日本産の木ということを示していたね。

そう。実はエンジュは中国原産なんだけど、学名にはjaponicumとあるということは、古くから日本で生育していたことを物語っている、という話をしたね(→2015.10ちょっと教えて)。


由来や分布も、学名を見ればわかるんだ。

なお、種レベル以下の、変種などの場合は、“var.”という文字をつけて、続けることもある。
たとえばエノキの学名はCeltis sinensis var.japonica。Celtisはこの属の種の古代ラテン名、sinensis は「中国の」、var.「変種」、japonicaは「日本の」。つまり、古く欧州にあったものの同属が中国で発見され、さらにその変種と位置づけられるものが日本で発見された、という歴史を物語るといえるだろう。


var.は、variant。同類の変異・変型の意味だね。

ええっと、ラテン語なのでvariatioの省略かな。
学名の表記なら、ちょっとおもしろいものがあるよ。これは京都府立植物園のサクラ園のなかにあるラベルだが・・・。




え? この学名、すごく長くない?

そう。これは学名がドンピシャの一語でなく、掛け合わせた要素・内容を記載しているものだ。
この植物自体がどうなるかはわからないけれど、こういう状態のまま学名並みに扱われるようになる例もさほど珍しくはないよ。


この長いのが学名になるの!? 寿限無みたいじゃない。

あははは。確かに。


そうしてつけられた学名、植物園や自然公園では、実際にどんなふうに表示されているのかなと思って、写真をひっくり返して探してみたんだけど。

じぃじ先生も植物園を歩いて写真を撮ってきたよ。普段はあまり注意していなかったが、面白いものがいろいろあった。


・・・こうやって改めて並べていくと、いろんな種類があるんだねえ。はじめて見るものもあるなぁ。

植物のプロフィールだけでなく、こちらは温室。中の展示物についての説明で、その目的や状況がわかるようになっている。


なるほど。植物園の取り組みなんかもわかって、いいよね。

クスノキの保全作業についての、こんな説明書もあった。
クスノキが並木になっている場所があるんだが、実は以前、その木々の手入れの様子を見て、ちょっと刈り込みすぎじゃないかなと思ったんだ。それを植物園の人と話したことがあったんだけど、次に行ったときにはこんな説明板ができあがっていた。


すごいなあ。双方向コミュニケーションだ。

コミュニケーションと言えば、複数の国の言葉で書かれた看板も見かけたよ。日英中韓の四か国語が並んでいる。


グローバルな時代だもの。

そのとおり。
こちらはちょっと大がかりなもの。滋賀県の琵琶湖博物館では構内に、太古の森、縄文・弥生時代の森林植生をつくり、その復元を目指している。
もちろん展示用だが、今はその途中過程、というよりは、遷移の速度を考えれば、スタートしたばかり。その趣旨を丁寧に説明している。


長い時間がかかりそうだけど、その分、何度も行くのが楽しみになるね。

じぃじ先生としては、原則として、植物園の全ての展示植物にはラベルだけでもつけて欲しいと思う。珍しい花などには特にね。
見頃の時期に、その説明ラベルが無いのは悲しい。植物名を知ることは、興味の第一歩。そこから知識は広がるのだから。


もちろん正確性ありきというのは言うまでもないけれど、来る人たちにいかに興味をもたせ、学んでもらうかも大切。
どういう情報をどう盛り込み、どういうスタイルで表示していくか。スタッフさんの腕の見せどころだね。
 

     


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