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2010.05
森林雑学ゼミ
 

ナラ枯れ―マツ枯れに続く山林ピンチ

 

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ナラ枯れ被害、琵琶湖西岸のコナラ(2009年9月撮影)。




これもナラ枯れ。被害木の根株。甲虫の穴からこぼれる木屑(2009年9月)。



枯れたヨーロッパオーク。京大グラウンドにて(2008年9月)。


 

 

 

 

 

 俗に「ナラ枯れ」と呼ばれる被害が拡大する一方です。以前、ひとりごとでも触れましたが、今やマツ枯れ騒ぎの二の舞の状況になりつつあります。

 これは、樹木の幹に孔をあけて入り込むカシノナガキクイムシ(略称:カシナガ)という小甲虫と、それが運び込む糸状菌が共同して木を枯らしてしまう害。菌は幹のなかで増殖して幼虫の餌になるとされています。
 ミズナラ、コナラなどのナラ類、アラカシなどカシ類、つまりドングリが実る樹木を枯らし、今あちこちで、夏にも茶色に枯れた葉が目立ちます。
 とくに、コナラ。過去、多くの里山でマツ枯れが進行しましたが、その跡地を引き継ぐ樹木の代表がコナラでした。その樹種が被害を受けてどんどん枯れるのは大問題です。

 丹波地方の山岳地でもミズナラに枯葉が目立つようになり、また京都東山でもコナラを中心に被害は広がっています。
 2008年には、京都大学のグラウンドにそびえていたヨーロッパナラも枯死しました。
 このナラは、1936年のベルリンオリンピックにて、三段跳びで16m00の世界記録を出し、金メダルを取った田島直人選手が、副賞として受けた苗木を母校に寄贈したもの。以降、70年を経て樹高20mに達していました。
 
 国産・外来を問わぬナラの被害なのです。
 薬剤処理、幹をビニールで覆うなど、いろいろ防除策は試みられていますが,今のところ、被害木を伐倒処理して被害拡大を防ぐ以外に、確実な対策はありません。残念ながら・・・。

 1970年代、南太平洋のフィージーへ行った時、類似の話を聞きました。
 ここでは主要造林樹種であるマホガニーに被害があり、甲虫は、運び込む菌の名から「アンブロシァ・ビートル」と呼ばれていました。
 材質が売り物の樹種だけに幹材の食痕が大きな話題でしたが、菌を樹体内で育てるという話は耳新しく感じたものでした。
 
 さて、最後に疑問をひとつ。
 「カシナガ」という名の虫による現象なのに、被害はナラに多い・・・?

 実は常緑のカシも落葉のナラも分類上は同属です。英語圏に多いのは落葉性のもので、oak(オーク)とはナラを指すのが普通、常緑のものには holm の別語もあります。
 しかし、わが国では、明治以来 oak はカシと訳されるのが通例でした。
 かつて英国女王ご来日の時、お土産にご持参のヨーロッパナラを迎賓館にお手植え。新聞は一斉に「女王、カシをお手植え」 と報じたのでした。



(c)只木良也 2010

 

 

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