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2010.10
森林雑学ゼミ
 

「保全」という言葉

 

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@保存の状態 
三重県赤目四十八滝谷、暖温帯落葉広葉樹林





こちらはA保全の状態
東京都桧原村里山、スギ林・広葉樹林・竹林


 

 

 

 

 

 地球の生物多様性を守るに、一番いい方法は何でしょうか。
 答えは、「ヒトという生物が絶滅すること」。
 語弊を恐れずに言うならば。

 でもそれは何とも!!
 ならば、「出来るだけ種の絶滅を防ぎつつ、人類の生活がいつまでも持続できるやりかた」を選ばざるを得ません。生物は人間にとって重要不可欠な資源だからです。
 これは、生物多様性条約にある、@生物多様性の保全、A持続可能な利用、B生物資源の利用と利益の配分、という3つの目的のうち、Aにあたります。

 「自然保護」という言葉があります。
 これと「生物多様性を守る」は同じことなのでしょうか。違うことなのでしょうか。
 これには各人各様の解釈があるでしょう。いろいろな考え方が出てくるのは、各人の「自然保護」の概念が違うからだと思います。

 私自身は「生物多様性を守る」のは「自然保護」の一部だと考えています。
 自然保護、それは古い時代には、いわゆる天然記念物のように、珍しい自然や特殊な自然をそのままそっと保存しようというものでした。
 しかし、現代では、「自然保護」はもっと広い意味を持ち、基本的には、生態系の維持と、その賢明なすなわち持続可能な利用、また天然資源の管理と解釈されています。
 つまり、上記の生物多様性を守る目的のAそのものなのです。
 
 「自然保護」、私はその中に少なくとも次の五つの概念が含まれていると思っています。

@保存

  人手を加えることなく、自然をそのままの状態にしておくこと。

A保全

  自然を荒廃させない、機能を低下させないことを原則として、資源等の価値を人間生活にも持続的に利用できるよう、維持管理すること。

B防護  病虫害、火災、土砂崩壊、気象害、周辺環境悪化などの外圧を排して、自然の悪化を防ぐこと。

C修復

  荒廃した自然を元の健全な状態に戻す、また機能的に優れた自然へと改良すること。

D.維持

  現在の好ましい構造や機能を将来に持続するよう管理すること。

この中で、@保存は、タンス預金のようなもの、預金自体は減らないが、生活経費は別途稼いでこないといけない。
それに対してA保全は、銀行等の預金のようなもので、利子の範囲を越えない使用ならば、元金は維持したままで生活できる。
生物多様性の目的も実はここにあると見るべきです。

しかしわが国では、かつての認識がそのまま持続されて、「自然保護」とは、「禁伐」「生物を取らないこと」「自然をあるがままにしておくこと」という@保存の意味のみに、偏って理解している人も多いと思われます。
@保存は、そこの自然の原型を維持することで、もちろん大切なことです。たとえば、人間活動が自然の利用に失敗したとき、自然回復のお手本になります。
でも、自然を利用して生きている動物の一つである「ヒト」は、それだけでは生きて行けません。だから、A保全の考え方が必要なのです。
重要なのは、「自然の能力を低下させない」、つまり「自然の実力以上に酷使しない」ということが前提になっている点。
「保全」、とは文字通り「保って、全うさせる」ことなのです。



(c)只木良也 2010

 

 

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