伊吹山頂上方面を望む。高木は見当たらない。
伊吹山の山頂部は平坦。
そこに大勢の登山者。高木なし。
頂上側から下斜面を見る。
樹木は低木化、そして草原に。
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先日出向いた伊吹山。山頂は、森林のない草原でした(→2011.8.18ひとりごと)。
実は伊吹山に限らず、この景観は、あちこちの山頂や尾根筋で見られる現象です。名前は、ずばり「山頂現象」。
降水量の多いわが国では、植物群落は原則森林です。しかしよく知られるように、高い山へ登れば気温は低下し、そこに生育する森林の姿は異なります。わが国では標高が低いほうから順に、次のように表示できます。
・低山(丘陵)帯 常緑広葉樹(照葉樹)林
シイ類、カシ類、タブ、クス、ツバキ・・・
・山地帯 落葉広葉樹林
ブナ、ミズナラ、トチノキ、カツラ、カエデ類・・・
・亜高山帯 常緑針葉樹林
北海道)トドマツ、エゾマツ・・・
本州) シラビソ、トウヒ、コメツガ・・・
・高山帯 低木林
ハイマツ、草原(お花畑)
なお、亜高山帯と高山帯の境界、それはつまり高木林(森林)が低木林に変わるところですから「森林限界」と、また、高山帯の低木も無くなるところを「樹木限界」と、それぞれ呼んでいます。
この垂直的な変化は、原則として赤道から北へ向かう水平的変化と同じで、暖温帯、冷温帯、亜寒帯、寒帯という気候帯と対応しています。本州中部の山岳におけるそれぞれの標高の目安は、
山地帯 < 1500m < 亜高山帯 < 2500m < 高山帯
と、考えてよいでしょう。なお、わが国には水平的には寒帯はありません。
高山帯となれば、当然その植生は低木・草原。しかしそれよりずっと低い山でも低木や草原があります。
伊吹山も、山頂の標高は1337mで、高山帯はおろか亜高山帯にも至らぬ高さ、でもお花畑(草原)で有名なのでした。
その理由は、「山のてっぺん」だからです。
周囲より相対的に標高が高く、違う向きを持った斜面がぶつかる山頂や尾根筋。そこを吹き越える空気は、斜面を登ってくる間に温度が下がって水分を落としてくるので、その場の降水量は相対的に少ない上に、水が流れ去りやすい地形となっています。
また一般に風が強いところでもあり、それは地面からの蒸発や、植物からの蒸散(根が吸い上げ体内を通した水を葉から発散)を促します。
つまり、山頂・尾根筋は水分不足になりやすく、植生の発達は概して悪くなる。それは、土壌への落ち葉など有機物の供給も悪いということであり、また、強い風はせっかくの地表の落ち葉を吹き飛ばしてしまうということです。
加えて、水が流れやすい地形は、落ち葉などを押し流すことや土壌浸食が起こりやすいことにつながります。したがって、山頂・尾根筋では土壌の生成発達も悪く、植生の発達、遷移の進行を妨げるというわけです。
こうしたことが原因して、山頂・尾根筋での植生発達は悪いのが一般的で、標高が森林限界以下で気温条件は十分でも、高木林の成立を許さない例は多々。すなわち「山頂現象」が起こるというわけです。
わが国の東北地方・日本海側では、積雪の影響もあり山頂現象は顕著で、標高の低い丘陵でも高木林を欠く例は多く、高木のミズナラは、低木として固定化したミヤマナラになっています。
さらに視野を広げれば、熱帯山地や南太平洋の島のような温度や降水量が十分なところでも、山頂現象は見られるのです。
(c)只木良也 2011
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