水源、水と土を守る広葉樹天然林
兵庫県武庫川中流
水源、水と土を守る針葉樹人工林
東京都多摩川上流
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地球温暖化のせいか、近頃「豪雨」が多くなりました。
本年9月の台風12号、15号に伴う集中的な降雨も記録的。そのために崩壊した土砂がつくった「土砂ダム」(せき止め湖)は、くり返し報道に登場しました。
降水と森林の問題、森林の水源涵養と土壌保全というテーマ。
これらは、実は表裏の関係です。以前にも扱いましたが(→2010.8ちょっと教えて)、今回の台風に伴う土砂崩壊に関連して、これらをもう一度考えることにします。
土砂崩れの現象をおさらいすると、表面の崩壊と深層の崩壊の大きく2つがあります(→2010.8ちょっと教えて)。
前者は、土がもつ水を浸み込ませる能力を超えて雨が降った場合に起こる地表流をきっかけに、表面侵食・土石流などが続くこと。
森林では、落ち葉などのおかげで、孔(すき間)が多い土(腐葉土:団粒構造)が発達します。そのため、よく水を浸み込ませ、土壌浸食も少ないのです。
また、樹木の細根は土壌に網をかけたように、直根はその網に杭を打ったように働き、土を浸食から守ります。
一方、後者、深層の崩壊は、長時間にわたる大量の降雨が岩石と土の境目を緩ませ、土が崩れ落ちるというもの。今年の台風で、多く見られたケースです。
この深層からの崩壊について、時折、森林は直接的な効果がないという意見が聞かれます。さらには水をよく浸み込ませるから土を重く崩れやすくする。樹木自体の目方もかかる。森林の存在はマイナスだ、などとも。
しかし、深層崩壊は、とくに悪条件のときに起こるものであって、日常の山地保全に、また深層崩壊に至る前の段階で、森林はその影響を和らげている、と言えるのです。
さて、森林の土に浸み込んだ水は、土の中をゆっくり動いて川に出たり、地下水に加わったりします。
したがって、下流の川では、雨が降ってもすぐには増水(洪水)せず、晴天続きでも水涸れ(渇水)しにくくなります。これは、わが国の森林の「水源涵養」と呼ばれる働きであり、すなわち、土壌保全の働きでもあったわけです。
こうした働きについて、一般に針葉樹林より広葉樹林の方が格段優れているという説が、世間でまことしやかに語られています。なかには、「針葉樹林にその能力はゼロ」みたいな言い方すらあるほど。
今回の被害についても、奈良・和歌山県下の山地崩壊を「スギ人工林地帯だから起こった」とするテレビ解説を耳にしたのでした。
これには大いに異論があります。
説の根拠は単純で、水を浸透させる土が出来るには腐った落ち葉が不可欠だが、広葉樹の落ち葉の方が腐りやすい、ということのようです。
確かにその通りでしょう。しかし、針葉樹の落ち葉だって腐るのです。天竜川沿い、静岡県にある金原明善水源林のスギ人工林(→2011.7森林雑学ゼミ)をはじめ、水源涵養に役立ってきた針葉樹林というのは、各地に少なくないのですから。
落ち葉が腐る、その速度が少々遅いだけ。ちょっと長い目で見れば、それは大した違いではありません。
ゆえに、広葉樹絶対説は、いわば迷信のようなものなのだと思うのです。
(c)只木良也 2011
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