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2012.04
森林雑学ゼミ
 

スギ花粉症 スギは冤罪?

 

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スギ人工林は日本を支えてきたのだが・・・。
上から、東京都桧原村、奈良県吉野、京都府美山町



 

 

 

 

 

 花粉症、とくに言う「スギ花粉症」。その勢力ますます盛んで、今や、国民病とまで。今年またシーズン到来で、気象情報に「花粉情報」まで出る有様です。
 今も昔も春は花の季節。スギを含むわが国の豊富な植生は春に花咲くもの多く、それはすなわち花粉も多いということですが、古来、今のような「花粉症」は無し。とすれば、主因は、近年登場した別の何かに求めるべきではないか、と、以前述べました(→2010.3ちょっと教えて)。

 スギを主犯とする現在の世論に対し、疑問に思う点を挙げてみました。これらに明確に答えられない限り、スギの犯人扱いは止めてほしいものです。

@花粉症が医学的に報じられた最初は、19世紀のイギリス。
イギリスはスギの無い国。当初はバラや枯れ草が原因と見られ、枯草熱(hay fever)の名。

Aスギの多い山間部よりも、スギの少ない都心部で発症率が高い。
日本で花粉症が騒がれ始めたのは、1970年代、高度経済成長が終わった頃から。
この頃、東京都杉並区でシンボルツリーを選定しようと、区の名前にちなむスギの大木を探したが、ふさわしいスギは既に無かったとか。 

Bスギのほとんど無い北海道でも沖縄でも、発症者はいる。
沖縄はスギの無いことを売り物に「花粉症のない沖縄へ」と、春の観光を呼びかけているのだが・・・。

C「布団を干すと黄色くなる」ほど花粉が多く飛散していたスギ林業地帯に、30〜40年以前は症状皆無。
ところが、国道・県道など大型自動車道が開設されるや発症・増加したという例がいくつも。

D花粉症の患者たちの住まいを地図上に示したところ、国道沿いに多かった。
 某地方都市の病院の調査より。

Eスギの豊富な地方事務所勤務から本庁に転勤した県職員に、発症例が多い。
某県の県庁は大通りに面する。発症のタイミングとして多いのは、転勤後3年ほど。

 以前にも述べたように、主犯は「排気ガス(とくにディーゼル)」、というのが私の説です(→2010.3ちょっと教えて)。
 近代とくに高度成長期から汎用となったトラック等のディーゼル排気が鼻粘膜や眼結膜を刺激して下地をつくり、それに花粉が付着して症状を起こすというもの。この視点で考えると、上の諸疑問は解けるのです。

 ヒノキ、ブタクサ、マツ、イネ、ヨモギ、シラカンバ、ハンノキ、ヤシャブシ・・・あまたある花粉症の原因植物の中で、スギばかりがフューチャーされるのは、やはり戦後の拡大造林計画においてスギの人工林が目立ったことが関係していると思われます(→2010.8森林雑学ゼミ)。
 しかし、それだけでスギを悪者と決めつけるのは間違いです。その環境・社会への貢献など、よく評価しながら総合的対策が講じられて然るべきです。

 スギ人工林が増えたことは、将来的にも有効に使えるための物質資源・環境資源の材料が準備されたと、まずは捉えること。
 そして、その長所をうまく育てて、それを持続的に利用する計画を立てる。それが森林国・日本らしい方策だと思うのです。  



(c)只木良也 2012

 

 

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