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2012.06
森林雑学ゼミ
 

水源林の公有化

 

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間伐遅れの密生ヒノキ林。もやし立ち。







よく管理されたスギ老齢人工林。
奈良県吉野

 

 

 

 

 

 5月27日付朝日新聞第1面に、「水源林 進む公有化」とありました。
 全国で水源確保のための森林公有化が進行し、ここ10年ほどの間に、11道県14の自治体が私有林を買収したとのこと。これを受けて国会でも水資源保全のための法整備が始まり、超党派の水制度改革推進議員連盟は、「水循環基本法」の案をまとめているそうです。
 水源林の公有化は水源維持・確保の対策です。それは、進む森林荒廃・劣化や外国資本による森林の買いつけなどに起因する将来の水資源危機を懸念してのことでした。

 森林の荒廃・劣化は、木材生産において経済的に採算がのぞめなくなったことによる山村の人々の森林離れに遠因しています。
 太平洋戦争後、木材の需要は拡大、価格は高騰。必要材の供給のためにと「拡大造林」政策が進行し、スギ、ヒノキ、カラマツなどの人工林は、わが国森林面積の4割にまで拡大しました。しかし、昭和39年の木材貿易自由化の影響を受け、日本の林業は衰退、山村の地域活力が低下したという人工林の歴史は、前に述べたとおりです。(→2011.12ちょっと教えて/2010.8森林雑学ゼミ
 しかし、山村から人々が離れようとも、拡大造林で生まれた広大な人工林は、人が造成したものだけに常々の人による手入れ管理が不可欠です。それは、有効な木材収穫のためだけでなく、水保全、土保全など環境面へ貢献度の高い森林状態を維持するためにも必要なのですが、現在では、それに必要な労力・資金が伴わないのが実情です。

 間伐(間引き)などの手入れをしない植えっぱなしの人工林は、どうなるでしょうか。
 全体に細い木がもやし状に立ち並び、すっかり葉で覆われて林内は暗く、下層の植生も生育できません。そんな状態では、降った雨は梢から直接地面を叩き、土を跳ね飛ばし、流れやすく、すぐ谷川に出ます。通常、森林の土には上木・下木の落ち葉がたまり、雨水はゆっくり土に浸み込み、徐々に良い土が作られ、それがまた水を良く浸み込ませます。
 それが「水源涵養」なのですが、手入れされていない人工林では、この機能が上手く働きません。
 それに、育ちの悪い個々の木の根の発達は、地上部よりもさらに悪く、土を掴まえる力も弱くて山崩れも起こりやすくなるのです。こうした傾向は、スギよりもヒノキの人工林でより顕著、といってよいでしょう。

 もうひとつの心配点は外国資本による森林の買い付けです。
 材木生産だけで評価されるので、国内での価格の低下したわが国の山(森林)は、目をつけられるところとなりました。リゾート開発地として、また水資源地として。
 現在の民法では、地下水は土地所有者の財産、つまり「私水」なのだそうです。とすれば、水源地を外国資本が所有しているということ。・・・何か不安を感じませんか。

 水道の発達で、誰でも蛇口をひねれば水が出ると思っている時代ですが、わが国ではその水源は森林です。
 その水源確保に懸念ありで、その確保や対策として自治体による公有化の動きが盛んになったわけで、個人の力で山(森林)の保全ができなくなった現在、この動きは今後も拡大してゆくと思われます。

 


(c)只木良也 2012

 

 

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