地球上の気候を分ける基準は、降水量と気温です。そして、その気温を尺度にして大分けは、赤道から極地に向かっての、熱帯、亜熱帯、温帯(暖温帯、冷温帯)、亜寒帯、寒帯、極帯です。
また、熱帯から亜寒帯までの、降水量がある程度多い湿潤、準湿潤の陸地には、森林が成立しますが、それぞれの森林は気温によって姿が変わります。つまり気候帯ごとに特徴ある森林となるわけです。
そうした分布範囲を表現する尺度として便利なのが、暖かさの指数(warmth index/WI)です。
WIは、当該箇所の平年の各月平均気温の+5℃以上の分を12ヵ月合計したもので、簡単に算出できます。下に挙げる、長野県松本市の例で計算してみましょう。
各月+5℃以上ですから、対象となる月は4〜11月です。
WI
=(9.7−5.0)+(15.1−5.0)+・・・+(12.4−5.0)+(6.6−5.0)
=89.7(℃・月)
つまり、松本の暖かさの指数は、89.7℃・月となります。
この指数を発表したのは、私の第二の恩師とも言うべき故吉良竜夫先生(→2011.11.24ひとりごと)で、大学出てまだ数年の若い時代(1949年)のことでした。
これは、少なくとも北半球の森林帯と気候帯にはピタリとあてはまる明快さを持ち、今も広く活用されています。この指数を使えば、熱帯:250:亜熱帯:180:暖温帯:85:冷温帯:55:亜寒帯;15:寒帯:0:極帯(いずれも℃・月)で表せるのです。
逆に、寒さはどうでしょうか。吉良先生は、+5℃を下回る分を合計して算出することを唱え、寒さの指数(coldness index/CI)と名付けました。上の松本の例では、12〜3月が対象月です。
CI
=−{(5.0−1.7)+(5.0+1.2)+(5.0+1.0)+(5.0−3.1)}
=−17.4(℃・月)
松本の寒さの指数は、−17.4℃・月というわけです。
なお、CIはWIと混乱しないように、−(マイナス符号)をつけるのが約束です。
CIは、寒さのために制限される植生分布をうまく表現してくれました。例えばシイ・カシ類などの照葉樹は、CIが−10℃・月を下回るところでは生育不能なのでした。
さて、例に使った松本の場合、89.7℃・月というWIをも見れば暖温帯・照葉樹林に適した条件であると言えます。しかし、CIが−10℃・月を下回る寒い冬があるので、照葉樹は生育できず、また、冷温帯のブナ、ミズナラなどは、WIが85℃・月より高いために暑い夏が越せない、という次第。
・・・で、結果として、その隙間を埋めて、寒さにも暑さにもほどほど対応可能なコナラ、クヌギ、シデ類などの落葉樹林となっています。
こうした林は、中間温帯とか暖温帯落葉樹林とか呼ばれてきたものですが、近畿以北の内陸部にかなり広い分布域があります。
その一部の地域からは、暖温帯と思って照葉樹を植えたが、冬の寒さで失敗、という話が今も時折聞こえてきます・・・。
(c)只木良也 2013
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