「森太郎」の木の根明く
巨大ドーナツ?
いえ、ちょっとした秘密基地みたい・・・。
|
|
まずは、雪の残るこの写真をご覧ください。
暖かい地方の方々は「4月になってもまだ雪の話?」と思われるでしょうが、寒い地方では4月初めはまだ雪が残る、あるいは今日も白い物がちらついた、といったシーズン。
この写真は、もう20年以上前、雪の多い年だったかと思いますが、5月10日頃撮影したものです。
場所は信州飯山、「郷土の森」に指定されたブナ林。巨木の愛称は「森太郎」です。
根元に目を凝らしていただくと、黄色いヘルメットをかぶった人が立っています。そこから木の大きさを想像してください。
ところで、木の根元だけ、円形に積雪が無いのにお気づきでしょうか。
この現象、雪国の人にはあたりまえのことですが、雪の無い地域の人には不思議なことのようです。
「枝が雪を遮るので、根元には雪が積もりにくい?」 いえいえ、まさか。
この現象が見られるのは、寒い冬の最中ではなくて、暖かくなってくる春先のこと。
春に向かうにつれて、太陽光線は強くなり、温かみを増してきます。
白い積雪は太陽光を反射しますが、雪よりずっと黒っぽい樹木の幹や枝は太陽光を吸収して温められます。
そのため、その暖かさで幹の周りの積雪がドーナッツ状に融け、やがて土も見えてくるというわけ。
樹種としては、ブナに多く見られます。
雪の多い地域では、樹木の若い小さい間は積雪の中に埋もれますが(→2014.3ちょっと教えて)、これが毎年繰り返されると、なかなか直立せずに低木状になってしまいます。日本海側に分布するミヤマナラはその例で、高木種ミズナラが低木化して遺伝的に固定したものとされています。
その点、ブナは積雪圧に対して抵抗性、復活性があるといえるのでしょうか。雪の中にすっくと立つ、雪国森林の代表選手。豪雪地帯の山の守り神です。
なお、この現象。俳句の世界でも注目され、「木の根明く」として春の季題にも。「根明き」「雪根開き」などとも言われ、春を迎える弾む想いが込められた、明るい言葉として用いられています。
ちなみに、木の根の明いた山の雪が次第に消え、新緑の輝きが明るんでくると「山笑う」季節です(→2012.6ちょっと教えて、2013.5森林雑学ゼミ)。
(c)只木良也 2014
|