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2015.02
森林雑学ゼミ
 

二酸化炭素吸収、日本の森林の実力は

 

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手入れされたヒノキ人工林。岐阜


 

 

ブナ天然林。群馬県・利根川源流

 

 

 

 

 

 

 以前、二酸化炭素と森林の関係を扱った折に、実際のところわが国の森林は、二酸化炭素吸収についてどれくらいの実力をもっているかに触れました(→2015.1ちょっと教えて)。

 今回は、その試算方法をちょっと詳しく説明しましょう。

 次の表は林業統計2007年、2012年の数字をもとにした試算をまとめたものです。

 


 

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 炭素固定量とは、森林が光合成で取り込んだ二酸化炭素のうち、木々が成長する間に呼吸や枯死・脱落などで失われる分を差し引いて、木々に実際に蓄積した炭素の量です。つまり“固定”された量というわけで、燃やしたり腐らせたりしない限り放出はありません(→2015.1ちょっと教えて)。
 では、算出方法です。いささかややこしいですが、表を見ながらお読みください。

 わが国の森林面積は国土の2/3を占める約2,500万ha、そのうちの4割約1,000万haが人工林。6割は天然林です(ただし、原生的な天然林はごくわずかです)。
 その下に、「蓄積量(森林の持つ幹の量)」を示しました。2007年と2012年のものの差として求められるのが、5年間の「増加量(成長量→表【A】)」と「その年平均(1年あたりの成長量→表【B】)」です。
 過去半世紀人工林化を進めてきたものの、国内林業不振によって伐採が手控えられました。このため、森林全体の蓄積量は年々増加して、2007〜2012年の幹成長量は、人工林、天然林あわせて年平均9,000万m3/年を超えました。

 これが5年間の「幹の体積増加量」です。

 次に、これらを重量に換算し、「乾重量増加量」を算出します(→表【C】)。
 「乾重量」とは文字通り「乾いた状態での重さ」です。つまり水分を全部追い出した後の重量です。なお、水分も含めた総重量は「生重量」といいます。

●幹の乾重量増加量

     =〔幹の体積増加量×幹の生比重(0.95)〕×乾重/生重(d/f)


 この乾重/生重の比は、針葉樹が主の人工林は0.4、広葉樹が主の天然林は0.6の概数を使っています。もちろん、樹種によって数値は異なりますが。


 そして幹だけでなく根の分も加味します。幹に対する根の重量比は0.3とします(→表【D】)。

●幹根の乾重量増加量

     =幹の乾重量増加量+(幹の乾重量増加量×0.3) 

 なお、葉や枝については、比較的短期間で枯死脱落して腐朽分解(=炭素放出)に回るので計算外とします。

 ここまでの数字がそろえば、いよいよ「吸収炭素量」(森林が吸収する炭素の量)の算出です。(→表【E】)

●吸収炭素量=幹根の乾重量増加量×4/9 

 4/9とは、樹木の主成分セルロースの平均組成〔(C6H10O5)n〕から算出される、全体重に対する炭素の重量比率〔C/(C+H+O)〕です。

 こうしてわが国の森林の炭素吸収固定量は、人工林1,715万トン/年、天然林519万トン/年と計算できました。
 その合計炭素固定量2,234万トン/年は、基準年である1990年(気候変動枠組条約締約国会議(COP)が二酸化炭素の排出量について計測・検討の基準にすると取り決めている年)の、我が国の年間排出炭素量3億4400万トンの6.4%(人工林4.9%、天然林1.5%)にあたります(→表【E】)。

 なお、炭素固定については、伐採後の木材(伐採木材製品)に関するものも含まれます(→2015.1ちょっと教えて)。それを「炭素の収穫量」として、2007〜2012年の間の木材収穫年平均1969万m3から計算してみましょう。
 森林と伐採木材製品を合わせた年間炭素固定量は2,567万トン/年、基準年排出炭素量の7.4%となりました。
 また、2012年現在、わが国の森林に幹・根として貯留されている炭素量は人工林6億6786万トン、天然林6億1196万トン、計12億7982万トンと算出できました。

 以上が、わが国森林の実力です。これを大きいととるか小さいととるか、またあくまでも私の試算であるため、結果には賛否があるでしょう。
 しかし、ひとつ確実に言えること。それは森林大国であるが故の数字ということです。

  

(c)只木良也 2015

 

 

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