わが家の神棚にも、もちろんお供え。
こちら、サカキ全貌。お馴染みの切り枝ではなく。上賀茂神社「伊勢神宮遥拝所」にて。
濃緑、つやあり、厚め、と、典型的な常緑広葉樹の葉っぱ。
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年が改まりました。お正月といえば、多くの人が出向く初詣。
神仏宗教混在で、あらゆるものに神仏が宿るとする考え方の日本では、その行き先は人それぞれに様々ですが、中でも特ににぎわうのは神社ではないでしょうか。
そこで、ちょっと注目したい植物があります。サカキです。
生枝や玉串として神様に供える、あの枝。サカキは神事には欠かせないもので、漢字で書けば「榊」、まさに木偏に神です。もっともこれは和製漢字ですが。 学名はCleyera japonica。日本産であることを示すjaponicaに(→2017.1ちょっと教えて)、この木と日本国との因縁を感じます。 なお、Cleyeraはサカキをヨーロッパに紹介した、植物学者にして長崎出島のオランダ商館長だったアンドレアス・クレイエルに因みます。
ツバキ科の亜高木・低木ですが、ツバキのような立派な花が咲くわけでなく、あまり目立つものではありません。
亜熱帯から分布していて本州中南部までが生育適地、関東では生育しにくくなります。そのため、関東・東北ではサカキの代わりにヒサカキを使うのが一般的。サカキと属は違うものの科は同じで、中・低木の姿がよく似ており、いささか小ぶりなところからの「姫榊」「非榊」であるようです。
なお、さらに寒い地域である長野ではソヨゴ、いよいよ常緑広葉樹が生息しなくなる北海道では針葉樹のイチイが使われているそうです。
そんなサカキですが、もちろん、現在では1樹木種を指します。しかし、古くは神に捧げるのは固定のものではなく、年中緑の常緑種の木の総称でした。
語源は、常に緑のめでたい「栄え木」、また神域との「境の木」とも。故にかつては、カシ、クス、モチノキ,マサキ、など広葉樹、マツ、スギなどの針葉樹も含まれたといいます。その後、時代進行とともにひとつの木・サカキが重用されるようになり、やがて神棚の一対の花立のことを榊立と呼ぶほどまでに定着していったのでした。
お供え用の樹種の総称「栄え木」の時代は、近在の山林から適宜採取してきて用が足りたと思われます。しかし、樹種がサカキに固定されると、品不足になるところもあって当然。それを補うべく、たとえば伊勢神宮には、神宮備林内にサカキ生産の農園が設定されています。
では、木偏に神がサカキなら、木偏に佛(仏)は何の木でしょう。
こちらは、お寺とかかわりの深い、シキミ「」です。「樒」とも書きますが、密教の儀式に使われてきたと聞けば納得です。
「栄え木」は神道だけではなく、後年渡来し、広まった仏教にも使われるものでした。神仏で混用されてきたサカキ・シキミが、時の流れのなかで、神・仏それぞれに専用化していったという訳です。
この両者にとって、神事や仏事という用途は大きな“チャンス”だったことでしょう。なぜなら、とりたてての特徴・特性をもつわけではなく、建築材にも不向きな亜高木。そのため本来ならば、薪などの「雑木」の扱いでしかなかったでしょうから。 ・・・と考えれば、サカキやシキミの木こそが、宗教に救われたと言えるのかもしれませんね。
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