8月の「ちょっと教えて」は土砂災害について。その中で、森林の土砂崩壊を食い止める力が以前より弱くなり、それは人工林の手入れに大きく由来する、といいました。

 森林の質が変わったということ、それは昭和30年代からの「拡大造林」政策によって進められてきた人工林の増加によるものが大です。
 拡大造林というのは、太平洋戦争後、その復興で木材が不足した時、木材生産に適した針葉樹人工林化が進められたもの。草地、無立木地のみならず、広葉樹林も建築材用のスギ、ヒノキ、カラマツなど針葉樹人工林に変えられていきました。
 そのおかげで、わが国の2/3を占める森林面積の4割(つまり国土面積の1/4以上)までが人工林になりました。

 ところが、人工林でも、木材として使えるようになるまでには数十年が必要です。
 その間に外国からの安い木材が大量に輸入されるようになり、国内林業は衰退してしまいました。いま国内で使っている木材の、8割近くが輸入材です。この森林国の日本で・・・。

 人工林に必要なもの、それは保育、植栽木をうまく育てるため手入れ管理です。
 ヒトが、同じ樹種を同時に植え込むのですから、他の種との競合を無くすための下刈り、ツル切り、除伐、そして大きくなってきた植栽木同士の競争を和らげ、早く、良い材を作るための間伐。
 とくに間伐、すなわち「間引きの伐採」は、良い木材を作るために必要なだけでなく、水保全や土保全といった森林がもつ環境提供の能力維持にも必要なものです。

 人工林を間伐せずに放置しておくと、全体的にひょろひょろのモヤシのような林になりがちで、これは風や積雪などの気象災害に弱く、病虫害もこうした弱体化した林には発生しやすいものです。
 間伐無しの混み過ぎた林の中は暗く、地表の下草や低木などの植生も無くなり、土が露出します。
 露出した土は、豪雨時などに雨粒に叩かれ、跳ね上がり、流されやすくなります。そして、地表の植生という障害物が無いと、表面浸食はぐんと激しくなります。
 表面浸食は落葉も押し流し、それは良い土を作る原料を失うことを意味します。とくにヒノキの林では、落葉が細かくなるために流されやすく、この現象が顕著です。
 
 とかく批判の多い拡大造林でした。
 植え過ぎ、単一種栽培の弊害、反生物多様性、自然破壊とまでいわれ、挙句の果ては、花粉症の主犯に擬せられました。
 しかし、生んだ子は育てるのが親の任務。それにこの子供たちは、うまく育てれば親孝行してくれるものたちなのです。
 全世界で、「木を植える」ことを悪くいうところはありません。木を植えて叱られているのは日本くらいのもの。
 ちゃんと保育してやれば、人工林も水保全、土保全に役立ってくれます。それに、今話題の二酸化炭素問題には、人工林は大いに貢献してくれるのです。

 人工林は、そもそも好成長を狙って植栽したもの、このことは、二酸化炭素吸収量の多いこととイコールです。実際にわが国では、日本の森林面積の4割にあたる人工林が、全森林合計の7割以上の成長量(幹増加量)を持っているのですから。
 それに人工林は、伐採・更新が連携した経営計画に基づいて運営され、炭素貯留量の多い高蓄積森林へも誘導可能、炭素貯留したまま使う材料としての木材収穫効率が良いのです。
 すなわち、二酸化炭素問題対応には人工林は主役の位置にある、といえます。
したがって、地球温暖化抑止にまつわる二酸化炭素吸収源としてカウントされる森林は、「適切に保育管理」されていることが条件になっているのです。

 このことは、「間伐して吸収力を増やす」のではなく、「間伐して二酸化炭素吸収・貯留能力を維持」することに意義を認めるもの。
 この点で、外国産材の輸入は、国外で吸収した二酸化炭素を国内に持ち込み、放出していることに他ならず、マイナス評価されて然るべきというわけです。




(c)只木良也 2010




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只木良也



  いま必要な人工林の保育

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間伐直後のスギ人工林。木と木の間に余裕があり、光が行きわたる。(東京都桧原村)



間伐手遅れのスギ人工林。うっそうとしている。(滋賀県栗東)



間伐が遅れたカラマツ林。地表植生が無くなっている。(長野県伊那)


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