お母さんが、そろそろクシャミをはじめたよ。目もかゆいみたい。


毎年恒例のアレ、か。いよいよはじまったね。


うん。毎朝、ニュースの花粉情報を見ているけど、日によって、地域によって、花粉の量や飛び方が違うみたい。


春夏秋冬いろいろな花粉が飛ぶが、花の咲く時期になって、暖かい日・天気のよい日にはとりわけよく飛ぶと言われている。
春霞という言葉を知っているかな?



春のもやもやーっとした風景のことだよね。古文のテキストに歌が載ってた。
「あさみどり かひある春に あひぬれば 霞ならねど たちのぼりけり」(鳥飼「大和物語」)


お、そんな話が出てくるとは驚きだ。
春の風物詩として、芭蕉にも「春なれや 名もなき山の 朝霞」という句がある。
そう。霞とは、空気の中に細かい水蒸気や花粉などが浮遊して、なんとなくもやがかかって遠くが見えにくい様子。
春は、植物が花粉を飛ばす季節。花粉も、空気をかすませる原因のひとつに違いない。



花粉症といえばスギって感じだけど、昔から日本人におなじみの木だよね? 
日光で歩いた街道は、立派な杉並木だったよ。昔の人も、春はクシャミしながら通ってたのかなぁ?


ところが、花粉症の歴史は古くないんだ。お母さんに聞いてごらん。子どもの頃は、花粉症という名前も聞いたことが無かったと思うよ。
クローズアップされるようになったのは、ぜいぜいここ30年くらいだ。
調べてみると、4〜50年前、イギリスでpollinosis(花粉症)の報告があったようだが。


イギリスにもたくさんスギの木があるの?


いや、イギリスにスギはないんだ。
その報告では、バラが主原因のようだとしている。



あれ? そうなの? 
あ、でも、花粉を出す植物はスギだけじゃないよね。


もちろんそうだ。春にはナラ類やイチョウなど、いろいろある。
花粉症の原因として名前が挙がっているのは、スギやヒノキほかに、ブタクサ、キク、イネ、ガマ、ヨモギなど。


じゃあどうして日本では、スギばかりが言われるの?


考えられるのは・・・。
日本では、太平洋戦争の後、木材が不足し、その対応策としてスギの人工林が増えたということがある。
こうした歴史を背景にして、スギが花粉症の犯人の代表のようになってしまったんじゃないかな。



ふうん? なんだか納得いかないな。
そういう事実はあったとしても、昔のほうが絶対に自然は豊かだったはずでしょう? 花粉だって、もっとたくさん、いろんな種類が飛んでいたはずなのに。


そうなんだ。そこで、じぃじ先生はこう考えている。
たしかに花粉もひとつの原因かもしれないけど、最近になって現れた別の原因と一緒になって、“花粉症”というものは引き起こされているのではないかなと。



最近現れたもの・・・?


ここ50年くらいの間に、日本で急激に増えたものって何だろう? 
65年前の1945(昭和20)年に太平洋戦争が終わって、その後・・・。


こないだ歴史でやったよ。
戦後の復興のシンボルが1964(昭和39)年の東京オリンピック。それをはさんで20年くらいの間が高度経済成長期だよね。
その頃、急激に都市化が進んで、車が増えた。


そう! それだよ。
車の中でも、トラックなどによく使われるディーゼルエンジンの排気ガス成分が、人間の目や鼻の粘膜をいためて、そこに春霞の花粉などの粒子がとりついて炎症をひきおこすという説があるんだ。
つまり主犯はディーゼル、スギはそれに巻き込まれたんじゃないかと。



う〜ん・・・人工林が増えていくのが目立ったからかな・・・?


それもあるかもしれないね。
実際にね、じぃじ先生は、もう60年近く植物の研究をしていて、スギもヒノキもたくさんある山の中を歩き回ってきた。大学にはスギの実験林もあったしね。だから、自分だけは絶対に花粉症にはならないと自信を持っていたんだ。
でも、大学を離れて大通り沿いのマンションに引っ越したら3年目に・・・。



ハックション!・・・だね(笑)。
じぃじ先生のはいつも連発。9、10、11回・・・。クシャミじゃなくて、「11シャミ」だよ。


これは言われてしまったなぁ。
そんな実体験も含めて、ディーゼルのことを考えると、花粉が多い山里よりも、都心部に花粉症に苦しむ人が多いことが説明できる。
もちろん、スギが全く関係ないと言うつもりはないよ。



だけどやっぱり花粉症といえばスギ。
花粉を出さないスギができたというニュースもあったよね。


そうだね。育種技術はすごいんだ。
でも、考えてみよう。花粉というのはどういうもの?



子孫を残すために必要なもの! 
長い間、そうやって子孫を残してきたのに、私たちの時代に、人間の都合でそんなことしちゃっていいのかな。


自然と人間のつながり。なかなか難しいところだ。
考えてしまうね。



なんだかスギがかわいそうになってきたなぁ・・・。




YOSHIYA TADAKI 's web site 森林雑学研究室 Stories of Forest Ecology


 



日光にはスギがたくさん。
お母さんいわく、「春には来たくな〜い!」。





スギの花(雄花)びっしり。
これから花粉が飛ぶと、あたりは“もやもや”に。





梢、すくすくと。
犯人はスギばかりではないんだけど・・・。







高度経済成長期ってこんな時代だったらしい。1950年代後半/じぃじ先生のアルバムより。





こんな並木も悪者に?(山形県・羽黒山)















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