京都府立植物園 水琴窟のあるあずまや
アカマツ幹折れ
クロマツ倒木 京都御所 禁裏北塀前
農地の防風林、北海道帯広市郊外
|
|
10月22日、台風21号。その被害は大きく、上賀茂神社(→2017.11.1、11.2ひとりごと)ばかりでなく、京都府立植物園と京都御苑でも見られました。
まず植物園。過ぎ去ってすぐに出向いてみたものの、約100本もの大木が倒れたとかで、処置のために4日間休園。27日に入園しましたが、園内あちこちに立入禁止の黄色テープが見られました。
被害倒木には、100年近く前の開園時からある樹高25mのヒマラヤスギ、樹齢80年と推定されるレバノンスギ、春のエースであるソメイヨシノなどが。
中でもレバノンスギは倒れた先にあった、名物の水琴窟のあずまやを破壊。ただし、樹木本体は根がついたままの、いわゆる根倒しの状態。原産地にも残り少ない貴重種だけに、植物園側には「起こして回復させたい」という意向があるようです。
京都御所は24日に。砂利道、芝生には、小枝が散り敷いている状況で、倒木は植物園よりは少ないようですが、やはり点々と見られました。
こうして風に負けた木の話をすると、風に弱く、その被害を受けた後始末が大変なら、始めから木を植えなければいいという声が聞こえることもあります。
しかし、それには大いに反論。樹木の普段の働きをわかっていない意見に他なりません。
「防風林」という言葉があります。
飛行機で北海道へ向かっていると、空港に近づいた頃、農地を画するように帯状の森林が配置されている風景が見られます。もちろん北海道に限りませんが、農地保全に貢献する防風林は、広く活用されてきました。風力を和らげ、農作物を守ると共に、土壌の吹き飛ばされるのを防ぎ(土保全)、蒸発を制御し(水保全)、地温の低下を阻止するなど、多くの働きを担っています。
実際の防風効果はといえば、一般に常緑樹で樹高が高い林帯で大きいといわれます。理想的な防風林ならば、防風林の風下に樹木の樹高の30倍、風上にも樹高の5倍の距離まで及ぶとか。
その「理想的な防風林」とは、内陸部では、樹木7列程度の林帯で、吹いてくる風を完全に食い止めるのではなく、風力の4割程度を通過させるものとされています。風を通過させるのは、衝立のように風を完全に妨げてしまうと、林帯を乗り越えた風が、風下で渦を巻き、かえって「風害を引き起こしかねないからです。
防風林の風速減少効果(只木『森林と人間』1976年)
海岸線になると、内陸部よりも広い林帯幅が必要になります。最前線の樹木が潮風によって被害を受ける(塩害犠牲)ことを考慮する必要があるためです。
また同様の働きをもつものに「鉄道防雪林」があります。雪国の線路脇の森林で、この標柱は珍しくありません。上から降る雪に対して木がどう役に立つ? という声があがりそうですが、それは雪国の気象の特性に起因します。
雪国では、雪は上からだけでなく、風によって「横」から降ります。いわゆる吹雪であり、日常的に見られる現象なのです。これに対し線路沿いの林帯は、強い風を「防風林」として和らげ、一緒にやってくる雪を林内に落として積もらせます。すると、その分だけ線路への積雪が少なくなり、鉄道の運行への支障を軽減することができるのです。
猛烈な台風はともかく、日常において、樹木・森林は風を防ぎ和らげてくれています。生活に重要な場所の周囲に樹木を配置して風を防ぐのは、ずっと昔から人間が行ってきた知恵ある策なのでした。
(c)只木良也 2017 |