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2020.04
じぃじ先生 ちょっと教えて

ロンドンの木造劇場、覚えてる?



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テムズ川から。現代的な風景の中に木造3階建ての劇場。そのコントラストが不思議。




現代のグローブ座は、橋よりもテムズ川の水上バスが便利。Bankside Pierで降りてすぐ目の前!




ガイドツアーはここからスタート。一般向けに加えて、ファミリー向けもあるらしい。日本語の資料もあるのがありがたい。

 



新型コロナウィルスで、世界中が大変だね。

日に日にひどいことになっている。ちょうど年度替わりだからどこも大変だろう。京都林大も変更多々だよ。

ともかく人が集まることが良くないという。京都の植物園では、せっかくサクラをはじめ花々が美しい時期なのに、その花見客で混雑が予想されるというので、臨時閉園だ。


残念だよねぇ、本当に。私も楽しみにしていたコンサートがなくなってしまったよ。
日本だけじゃなくて世界中で、音楽や演劇の公演ができなくなっているんだ。ロンドンに年末に行ったでしょう。あんなに活気があったウエストエンドの劇場街も、今はみんなお休みなんだって。

ロンドン旅行、わずか3カ月前なんだがなぁ。信じられないね。 劇場といえば、テムズ川のほとりにちょっと変わった立派な木造の劇場があっただろう?


シェイクスピアズ・グローブ(Shakespeare's Globe)、グローブ座のことだね。
シェイクスピアの時代、エリザベス朝の劇場を再現した屋外劇場で、今あるものは三代目。再建の中心人物は、サム・ワナメイカーというアメリカ人の役者・演出家で・・・。

おや、すいぶん詳しいぞ。


だって見学ツアーに参加したじゃない。

ああ、ツアーガイドさんがまるで役者のようで、表情豊かに語ってくれて実におもしろいツアーだった。
ところが肝心の内容のほうは、早口の英語で充分に理解できたとは言えないんだなぁ。


じゃあ、写真見ながらおさらいしようよ。

お、はやりのバーチャルツアーというわけだな。



ツアーの待機場所。小道具や劇場の模型もあって、わくわくしちゃう。




巨大なオークのオブジェ! じぃじ先生と見比べてみると大きさがわかる。




ウェストミンスター寺院のそばから、船に乗って行ったよね。


初代のグローブ座は、現在の場所から数百メートル離れたところにあったんだって。
当時はテムズ川に橋が2本しかかかっていなくて、中心街から見ると対岸の歓楽街だったところ。そこに1599年、当時の庶民の娯楽だったシェイクスピア劇を上演するために建てられた。収容人数3,000人。ところが、14年後に焼失したんだ。

劇の最中、大道具の大砲で屋根に火がついたんだったっけ。


そう。幸い死者は出なかったけど、ズボンが燃えちゃった人がいて、ビールで消したという目撃談が残っているらしいよ。
翌年にはすぐに二代目が再建された。ところが今度は、1642年に清教徒革命で閉鎖され、翌々年に取り壊されてしまう。
そして、現在のものが1997年に完成。

建ってから、まだ20年そこそこ。まずはそれに驚くね。
見学ツアーは、川沿いの入口からスタート。入ってすぐのロビーに、巨大なオークのオブジェがあった。建築材料とした木へのリスペクトが感じられてよかったなぁ。


じぃじ先生、感激していたよね。オークって、やっぱりヨーロッパでは重要な木なんだって感じた。

さ、ひとつ基本を確認しておこう。オークの樹種を日本語では何と言うでしょう。


カシじゃなくて、ナラのこと。特に落葉するもの(→2010.52015.09森林雑学ゼミ)。





中に入るとこんな感じ。椅子と立見で約1,500名収容。意外に大きい!

 


よしよし。では中へ。
そこでまぁ・・・これは正直驚いた。木造建築、しかも朱色が印象的だ。
豪華な細工が施され、天井は格天井、客席の桟もオリエンタルな雰囲気で、まるで中国の古い豪華な建築だ。


そんなことはないと思うよ。ガイドさんも中国風なんて言っていなかった。

まぁそうだろう。ヨーロッパの建築物は石造りが主流だから、木造で朱色というのが目新しくて、余計にそう感じるのだろうな。



大理石みたいな柱も、舞台中央のバルコニーも木製。迫力あるなぁ。




舞台には格天井も。バルコニーみたいなところの下をよ〜く見ると、奥の柱が・・・!?



石造りといえば、舞台にマーブル模様の柱があったでしょう?

うん、まるで竜の彫り物だと思っていたんだが、あれも実は木造なんだってね。


そう。石材は高かったから、木材を赤いマーブル模様に塗ってあるんだって。
ここは、演劇を庶民の娯楽にしたいと思っていたシェイクスピアのいわば「My劇場」。自作の演劇を見せる場をつくることが目的だったので、初代は既存のシアターの廃材を利用したという記録があるみたい。

柱は奥に描かれてもいたね。はじめは気づかなかったが。


あったあった。彫刻みたいに立体的な天使の絵もあったよ。うっかり本物と騙されるところだった。
描いて見せるっていうのは、木造だからできることなのかも。

それも経費節減の策だったのかな。もちろん物理的なスペースの都合からかもしれないが。






2階席から。下の地面がアリーナ席。その上は空! 上演中に雨が降るとびしょ濡れだ。




お金の話でいえば、庶民でも買える安いチケットの話が出ていたね。


立見のアリーナ席のことだね。
屋根のないところで700人くらい入る。かつてこの席のチケット代は1ペニーだったらしくて、ここで見る人(土間客)は、「ペニー・スティンカー(Penny Stinker / ペニーで入ってきた臭いやつら)」と言われていたそうだよ。

それはありがたくない呼び名だなあ。じぃじ先生はやっぱり座って見せていただこう。




客席ももちろん木造。そのまま座ると痛いから、公演の際はクッションの貸し出しがあるみたい。




柱にひび割れ・・・もしかしてこれ?



客席もすべて木造。
オーク材は1年かけてゆっくり乾かすと、歪みやヒビが防げるんだって。時間かかっているね。

いやいや、木を乾かすのに1年は特に長くない。
お伊勢さんは6年かけて乾かすよ。御杣始は、式年遷宮の6年前に行われていたじゃないか(→2013.5ちょっと教えて)。


ところが、グローブ座では乾いた木ばかりじゃなくて、あえて乾いていない木を使っているところもあるらしいよ。

ほう。


木造建築は木を組み合わせるので、乾いていない木を使うとそれが乾く時によじれたり変形したりする。だから木組みが強固になるんだって。

なるほど。そういう工夫をしているのか。木は完全に乾かして使うものだと思っていたけどなぁ。


うん。乾いていない木を使っていると、柱にヒビが入っちゃうこともあるらしいよ。



オークで作っちゃった舞台。
完成後、俳優さんたちを入れて劇場としての動作確認をした期間に、オークだと滑ることがわかったらしい。




さて、次はこの舞台だが。


再建の際、ありとあらゆる学問的資料を紐解いても、舞台ついては資料が少なくて苦労したみたい。材の種類どころか、形も正方形か長方形かわからなかったそう。
で、オーク材で作ったところ、俳優さんたちがつるつる滑っちゃったらしい。後になってからマツだと判明したんだって。

マツはスティッキーレジン(Sticky resin)、つまり松脂が多い。これは粘り気があるので、滑りにくいんだ。
なるほど、シェイクスピアの時代にもそういう知見があったのかもしれないな。




難航極めた手すりの縦桟。うっすら色が塗ってある。塗装については、あまりやりすぎずに木の風合いを残す方針なんだって。





客席の各階の手すり、それを支える縦桟が並ぶ様子も壮観だよね。
これ、スピンドルと言われていて、その数600本。木を削って成形し、そのあと塗装という工程なんだけど・・・。

それはそれは大変な手間だ。ましてや16世紀、どれほど時間がかかっただろう。


三代目の時には、ドイツの女性の大工さんが、最初は中世の道具で1本ずつ作ってみたんだって。
ところが1本あたりかかった時間が8時間。これでは600本はとても無理ということになって、現代の道具で加工したそうだよ。

昔は全部塗っていたんじゃないかな。そうなったら客席全体のイメージがまたちょっと違ったかもしれないね。



苔むした茅葺きの緑色が木の劇場に似合う。屋根の上には、ハト避けのために微弱な電流が流れてるとか。現代の知恵だ。





そうそう、屋根の話もしなくちゃ。
これはロンドン市内唯一の茅葺き。現代の消防法では禁止されていて特例らしい。ハトが自分の巣に使おうと思って、かやぶきのカヤを盗みに来るんだって。

ああ、この屋根だったから舞台の大砲から火がついてしまったんだね。今回はそんなことのないように願いたい。


よく見ると、遷移が進んでいたよ(→2013.8ちょっと教えて)。



シェイクスピアが『ヘンリー五世』で、「Wooden O」と表現した木製の円形劇場。これは模型。




観客を巻き込んで語るガイドさん。
屋外の劇場での公演は夏期のみ。夏にはコロナが落ち着いていますように!






さぁて、充実のツアーを終えて、そのあとカフェでひと休み。

このカフェもまた良かった。木のテーブルとイスは簡素だが立派なもの。施設のいたるところで木の良さを活かしていると感じたね。


じぃじ先生のお気に入りだ。

石造建築の多いロンドンに、2度も再建された立派な木造建築があって大切にされているというのは感慨深いよ。
そんなことを思っていたせいか、ここで飲んだ紅茶は、なんだかいつもよりもおいしく感じたなぁ。


日本ではシェイクスピア劇ってなんとなく高尚なイメージがあるけど、イギリスではずっと、貴族だけでなく広く庶民にも身近なものなんだよね。
だからこそ、劇場も再建できたんじゃないかな。だって、二代目が閉鎖したのって17世紀だよ? それが、まもなく21世紀なんていうタイミングで「造ろう」ってなるなんて。

しかも、今の時代に屋外、そしてちゃんと上演に使うという現役の劇場だもんなぁ。
訪れる前は「劇場を見る? お芝居じゃなくて?」って不思議に思っていたけれど、いやもう、本当に感激したよ。


建設中は、工事と一時中断しての資金集めの繰り返しだったそうで、今も運営資金の多くは寄付というよ。つくづく、演劇が、シェイクスピアが根づいている国なんだって思う。

新型コロナの影響で、ここも今はクローズなのかな?


そうらしい。公式サイトに載っていた。でも、いつかここでシェイクスピアの演劇を、観てみたいなぁ。

そうだね。「安くて臭い立ち見席」じゃなくて、ちゃんとした席でね。


そのためには新型コロナに世界中からお引き取り願わないとね! 
手洗い、うがい、外から帰ったらまずお風呂。じぃじ先生も気をつけてよ。







 


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