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2018.06
じぃじ先生 ちょっと教えて

「森林経営管理法」って聞いたんだけど?



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きれいに植栽された山。主としてスギの木らしい。
宮崎県諸塚村の人工林地帯にて。






かやぶき農家を囲むスギ人工林。日本農村の典型的・代表的風景。京都府美山町。





おなじみ、生態系サービスの図






若齢段階。木もまだ小さくて、いかにも生態系が未完成っていう感じ。 滋賀県比良山麓






壮齢段階。
こちらは働き盛りで、生態系充実。いい環境も提供してくれる、生態系サービスばっちりだね。 宮崎県高千穂






皆伐作業現場。山の斜面に注目。うわぁ、ほんとに、全部伐ってしまって丸裸になっちゃうんだ。京都府南丹波






手入れ不足、つまり適切に間伐をしないまま育ってしまったヒノキ人工林。
林内はうっそうとしていて、光が届かないから地表面には何も生えていない。大阪府金剛山。






こちらはちゃんと間伐できた林。間伐材のスギが、搬出されるのを待っている。静岡県川根町




「森林経営管理法」っていうのを聞いたんだけど・・・。

お、アンテナにひっかかったか。5月25日参議院で可決、成立したよ。


でも、あんまり報道されないね。そもそも、どういうものなのかな。

そうだな。知らない人も多いのは確かで、そういう反応だろうな。
簡単に言えば、林業活性化を目指す法律だ。現在、安価な外国産輸入材に押されて国産材が低迷しているが、その利用を拡大しようとするもの。行政主導で森林経営への民間活力導入を図ろうということだ。


森林国・日本らしくいきましょうってことなのかな。
国産材の低迷問題って、太平洋戦争後に木材の関税を撤廃して、貿易完全自由化にしたことから始まったんだよね(→2013.11森林雑学ゼミ)。長いこと引きずっているなぁ。

相変わらず、手厳しいねぇ(笑)。さて、林業の成長産業化を目指すということはどういうことだろうか。


う〜ん・・・とにかく、どんどん林業を活性化しないとダメだよね。でも今、林業は不況だから、なかなか難しそう。森林の所有者もやる気が出ないだろうし、何より人手の問題が大きい。高齢化で担い手が減って、山は荒れていっているって聞くよ。

ご明察。その点、この法律で注目しているところだ。手入れや伐採が行き届かない私有林の管理を市町村など公的な機関が引き受ける、という制度を組み込んでいるのが特徴だ。その主対象は、もちろん人工林。人工林は、昭和中期以降拡大して、わが国森林面積の4割を占めるに至ったが、木材価格低迷にあえいでいるのが現状だ(→2010.8森林雑学ゼミ)。


そうすれば後継者のいない林業家は助かるね。考えているなぁ、国も。

そう、うん。それはそうなんだけど・・・。


あれ? じぃじ先生は賛成じゃないの?

うーん、実は運用にあたってはいろいろ問題と思われる点も多くてね。
この法律が焦点とするのは、眠っている森林資産だ。その活用について言及している。つまり、木材という物質資源の流通面のみを考えたものなんだ。


流通面だけなの? それだと・・・。

ひっかかるよなぁ。そう。森林の管理の基本は「持続可能」なことだ。これは何を意味するか。


森林を使い切らずに使い続けること。

その「人間が森林を使う」には、いろいろあるんだが。


「生態系サービス」だね(→2011.2森林雑学ゼミ)。

詳しく言うと、人間社会が受ける森林生態系からの物質・環境・文化の3資源の恩恵を、将来の世代にも不利益にならず引き継げるように、現世代が利用することだ。


すなわち、「保全」の視点が欠かせない(→2010.810森林雑学ゼミ)。

前に、「短伐期皆伐」のことを話しただろう?


人工林で、木を植えてから伐採するまでの期間が短いやり方のこと(→2016.9ちょっと教えて)。でも、いろいろ問題があったよね。
50年未満程度の若いうちに伐ってしまうから、森林本来の力を存分に発揮することができなくて、生態系サービスもままならず、そしてその状態は、土壌劣化などにつながるとか。

よし、よく覚えていた。そう、だから森林本来の力を生かす人工林経営には、やはり、適宜間伐を繰り返しながら、少なくとも、数十年から百年以上の伐期を想定した長伐期の管理法(多間伐長伐期施業)を用いることが望ましい。


でも確か、今は短伐期皆伐に転換しつつあるんじゃなかったっけ。

そこだよ、そこ! 林野庁は2年ばかり前、木材自給率を上げるために、短伐期皆伐へと方向転換した。そこへ今回の法案。成立したとなれば、短伐期皆伐の路線が、ますます拡大・推進されてしまうのではないかと心配なんだ。


ちょっと待って。どういうこと?

いいかい? 林野庁の大命題は、成長量のわりには伐採量がさして多くないことをベースにした「林業の成長産業化」だ。だが、それを意図した新しい「森林管理システム」の主軸、その実体は50年生で皆伐する「短伐期施業」なんだ。


あ、そうか。じぃじ先生が言いたいのは、「せっかく長年かけて人工林の資源が充実してきた、ここへきて何故この内容か」ってことなんだね。

うん。太平洋戦争後の復興期、昭和中期に、木材不足で国策としての大面積皆伐。その時森林・林業界が浴びたあの大非難の声をまた聞きたくないんだ(→2010.8森林雑学ゼミ)。もっとも、それを覚えている人も少なくなってしまったがね。


・・・で、わかった上で考えてみると、その内容にはなんだか大きな不安を感じるよ。

うんうん、感じるね。


だったら、すべての林業家がそれに賛成というわけではないでしょう?

例えば、経営意欲にあふれた「自伐林家」がいたとしよう。
その人の方針は、親代々の多間伐長伐期大径材の生産だ。さて、この人の山林経営は、どう判断されるのか。


えーと、この法では、経営意欲のない山林所有者の山林を地方自治体が代わって管理するんだよね。

山林所有者には、適切な森林管理が義務付けられるとともに、山林経営意欲を失った山林所有者に代わり、その所在地の市町村が介入して森林作業を代行する、となっている。


ということは、その長伐期派の林業家さんは「意欲がない」「適切でない」とされちゃう場合があるってこと? 育てる方針が違うだけで?

新設の短伐期皆伐施業の地域の林業方針に沿わないとして処置される可能性が無いとは、言い切れないんじゃないかなって。


あ〜・・・考えられるかも。

法案の根拠の一つとされた農林水産省の全国調査では、わが国の森林所有形態は零細でその8割は森林経営意欲が低く、その7割は主伐の意向すらない、ということだそうだ。
だけど、低経営意欲と類別された林家の大半は「現状維持(拡大は意図しない)」。主伐意向無しの半数以上は「主伐ではなく間伐」の長伐期派か、「主伐収入だけでは再造林不可」の現実派だ。各々事情はいろいろ。経営意欲の判定は極めて難しいと思うんだ。


思う、思う。その基準だけで意欲ってはかれるものなの!?

それに、もうひとつ心配がある。市町村が主導するという伐出・更新・管理作業の委託先は、えてして効率・経済性優先の業者になるんじゃないかと。


都合よく委託業者が見つからない場合だってあるよね、きっと。

委託先がない場合は、市町村直営でと設定されているが・・・。


ねぇ、どの市町村でも、そんなうまい人材って確保できるものなの?

冴えているねぇ。それも大いに心配なところさ。報道によると、約40%の市町村では担当者がいないというのだから。


うわぁ、それ、大問題じゃない!

だから、じぃじ先生は、短伐期ばかりにこだわらず、長伐期派の自伐型林家についても「意欲と活力のある林業者等」として位置づけるべきだと思うんだ。
長期的な多間伐施業による森林経営は正当な経営方式であるはず。実際、日本は長年そうやってきたわけで、それはきちんと認めないといけない、とね。


なんだか不安いっぱいだなぁ。日本の森林のためを思ってつくられた法なら、それは実際に日本の森林のためになるものでなくちゃ。慎重に運用してほしいね。

 


 

     


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