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2022.05
じぃじ先生 ちょっと教えて

レバノンスギ、その後どうしてる?


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貴舩神社大スギ、台風で倒れた直後。痛々しい・・・。2018年10月13日撮影。 




2018年2月の雄姿




 
このあいだお散歩のときに、鞍馬街道沿いの貴舩神社の大きなスギを見に行ったでしょ(→2022.3ちょっと教えて)。

2018年の台風21号で倒れてしまった大スギだね。


そう。根元から1mくらいのところでスッパリと切り株になっていたよね。ということは、根っこごと倒れたというよりは、途中で折れたということなのかな。

いやいや、じぃじ先生は倒れた直後の様子を見ているが、根っこから根こそぎ倒れたという感じだったなぁ。


埋め戻したっていうこと?

よくわからないが、根倒しのもの幹はいくつにも切り分けて運び出し、根株部分は埋め戻したのではないかと思う。
あれだけ立派な、何より神社のシンボルだった木だ。ここに大木があったという痕跡というか、思い出のために、切り株だけでも残そうとなったのかもしれないね。


なくなっちゃったら寂しいものね。







2017年台風被害直後





2017年 助け起こして、ワイヤーで固定。斜めに張ったワイヤーが見える   





2018年 台風で、ささえていたほうの木が被害を受けてしまった。
切られた幹にまだワイヤーが見える。






この方向にレバノンスギがあった・・・





そして2022年、レバノンスギは伐り株に。






 

上原敬二『樹木大図説』 なんと1960年代の本






ありし日のレバノンスギ








東京都三鷹市にあるレバノンスギ。ちゃんと説明板もついて、大切にされている。
この木は、どうぞずっとお元気で。

 
台風で倒れた木といえば、植物園のレバノンスギなんだけど(→2017.11森林雑学ゼミ)。

2017年、台風21号の被害にあった木だね。名称が 同じ「台風21号」ということで混乱しがちだが、2017年21号は貴舩神社のスギ倒木の1年前の台風。あのときも植物園の樹木がたくさんやられた。 レバノンスギも倒れ、横にあったあずまやの屋根を破壊してしまった(→2017.11森林雑学ゼミ)。


うん、でも折れたんじゃなくて、根っこが土をつかんだまま倒れたことが幸いしてうまく助け起こすことができた。別の木にワイヤーで固定してあったでしょう?

そう。これはその頃の写真だが、レバノンスギのこずえから、右と左の斜め下に向かって伸びているワイヤーが見えるかな。


たしかその後、支えていた木が台風にやられたんだよね。

そうなんだ。それこそ貴舩神社のスギの倒れた2018年の台風21号だよ。支えていた木のうちの1本が被害を受け、上部がやられた。でもワイヤーを支えて下のほうの幹は残っていた(→2018.12ちょっと教えて)。


ワイヤーの上のところ、幹が裂けているよねぇ。えらいなぁ、自分が痛めつけられながらも頑張ったんだ。

このときは、レバノンスギ自体は持ちこたえた。周囲の木に被害はあったものの、よく持ちこたえてくれたと思っていたんだが・・・。


え? まさか・・・。

この冬、植物園に行ってみたら切り株になっていたんだよ。


えええ!?

結局ダメだったみたいだなぁ。切り株の横に「レバノンシーダーの切り株」という説明版が立っている。


うわぁ、植物園のスタッフさん、無念だっただろうね。貴重なものだっただけに。

原産地でももう数が減っている。ノアの箱舟やクフ王の太陽の船を作るのに使われたと言われる、聖書や伝説の上でも重要な木なんだが。


そうだ、聖書を見てみよう。ノアが箱舟建設を命じられるところ。
「あなたはいとすぎの木で箱舟をつくり、箱舟のなかに部屋を設け、アスファルトでその内外を塗りなさい(日本聖書協会、1955年訳)」。
・・・あれ? イトスギだって。イトスギってレバノンスギのことなの?

いや、まったく違う樹種だよ。イトスギは学名:Cupressus、ヒノキ科イトスギ属、レバノンスギは学名:Cedrus libani 、マツ科ヒマラヤスギ属だ。


だよねぇ。イトスギはゴッホが描いているすらっとした細い姿だし、レバノンスギは枝ぶりが大きい。見た目も全然違う。

西洋では針葉樹といえば、クリスマス・ツリー型のモミやトウヒが主役。日本のスギやヒノキ等は英語では“cedar”と広く一括して呼ばれる。その例でよく知られているのがヒマラヤスギ。レバノンスギも、英語では“Lebanon cedar”だよ。


翻訳のときに混乱してしまったのかなぁ。
聖書にはね、「レバノンの香柏の材木」という言葉も出てくるの。香柏って何かと思って調べてみたら、国語辞典には「ヒノキ科の常緑針葉高木」って書いてあった。でも、カシワ(柏)って広葉樹だよね?

それはきっと柏餅からの連想だな(笑)。たしかにカシワは広葉樹だが、一方でヒノキ・イブキ・サワラなどの針葉樹を「カシワ」と呼んできた歴史がある。コノテガシワという、庭園によく見る独立樹種もあるよ。
ヒノキなどは香りがよいことから古く「香柏」と呼ばれていて、「レバノンの香柏の材木」もその流れだろう。


ということは、もしかして香柏がレバノンスギなのかな?

さて、どうだろう。じぃじ先生は聖書に明るくないからよくわからない。そうだ、上原敬二先生の『樹木大図説』を見てみようか。


うわ、すごい! この本、聞いてはいたけど実物を見るのは初めてだよ。じぃじ先生がいう「森林雑学」満載だね。
・・・あ、「聖書に示されるレバノンの香柏はレバノンシーダー」と書いてあるよ。

ついでにイトスギも見てみよう。


えーと、「英国ではノアの箱船はGapper Woodで作るというが、これはおそらくこの材」。

お、上原先生によると、箱舟はサイプレスつまりイトスギ説なのか。


う〜ん・・・あ、でも、ほかの資料をいろいろ見てみると、箱舟の材のGapper Woodってどうやら特定されていなくて、いまだに世界中で諸説入り乱れているみたい。

ほう。じゃあ簡単に結論づけるわけにはいかないな。とはいえ、イトスギにせよ、レバノンスギにせよ、当時、よく知られた木だったということは間違いなさそうだ。


両方とも箱舟に使われた可能性はありそう。・・・それにしても、西も東も、神様の見解は同じみたいだねぇ。

ん? なんだ?


ノアの箱舟の材がイトスギであれ、レバノンスギであれ、その系統の樹種ってことでしょ? 船にはスギとクスノキを使えって、スサノオさんが言ってたじゃない(→2014.9森林雑学ゼミ)。

あははは! そうだった、そうだった。


なんか・・・深いなぁ。

説明板によると、この木は京都府立植物園にとっても「歴史的個体」のひとつだったそうだよ。


歴史的個体?

植えられたのはかなり昔のことのようだ。切り株の年輪を数えてみたら樹齢が86年ほど。昭和初期に植物園に導入されて、ずっとここにあったらしい。


植物園って、戦時中に野菜畑になったり、戦後GHQに接収されたりしていたよね(→2014.10ちょっと教えて)。その波乱の歴史を、世界において重要な役割を担う木が見守ってきたなんて・・・。

なんだか暗示的だね。そんな大切な木だから、植物園としても何とか助けたかったことだろう。


もう現地でも数が少なくなっているレバノンスギ、京都の個体は本当に残念だったけど、その木がレバノンスギの世界中の最後の1本じゃなくてよかった。貴重な木、各地で大切にしてあげてほしいな。




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