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2019.11
じぃじ先生 ちょっと教えて

アスナロは保護されないの?



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どれがアスナロ? どれがヒノキ? 

間違えれば「木一本、首一つ」。どうしよう・・・。

 



アスナロの葉、表。





アスナロ葉、裏。結構しっかり白い。

 

 


ヒノキ葉、表。

 




ヒノキ葉、裏。Yの字発見。

 



中尊寺にて。写真は鞘堂で、ヒバ材で造られたまばゆい金色のお堂はこの中に。

 

 



サクラの名所、弘前城。現存12天守のうちのひとつ。※1

 

 



青森市森林博物館。1908(明治41)年に青森大林区署(のちの青森営林局)として建設された。おもに県産ヒバ材を使用。※2

 

 


鶴の舞橋(青森県鶴田町)。日本一長い木造の三連太鼓橋。築1994(平成6)年。これも青森県産ヒバ材使用。※3




遷移のしくみ。木曽谷のアスナロとヒノキとをあてはめてみると、その将来像が見えてくる。




眺望山(青森市)。名前のとおり、すばらしい眺望。※4





ヒノキの下層に広がるアスナロ林。全面占有していて、その中にヒノキはほとんど見られない。木曽・赤沢にて。


※1〜4 写真は、青森県観光情報サイト「アプティネット」イメージギャラリーより



じぃじ先生、読者の方から質問をいただいたんだって?

そうなんだよ。早速お返事をしようと思ったんだが、アドレスが違うのか、うまく返信ができなくて。


それは残念。・・・で、どんな内容だったの?

ええと、50代の男性からだ。アスナロの木に興味をお持ちのようで、「ヒノキを保護しているのはよく聞くが、アスナロを保護しているところはないのでしょうか」と。


うわぁ、鋭い質問だ。じゃあ、ここでお答えしようよ。読んでくださることを願いながら。
実はそれ、私も疑問だったんだよね。じぃじ先生のヒノキ愛は知ってるけど、そのヒノキに近いはずのアスナロの話題、あまり出ないよね。

いや、そんなことはないと思うんだが・・・。ヒノキは伊勢神宮のご遷宮(→2013.5ちょっと教えて)はじめ各地で使われている、やはり日本で一番の建築用材だ。それを育てているヒノキ林は、木曽の赤沢で見た通り(→2009.9ちょっと教えて)。他に類を見ない神々しい美しさなんだよなぁ。


ほらやっぱりヒノキの話になる(笑)。
「木曽五木」もヒノキ保護を目的に定められたんだよね。「五木」には、アスナロも入っていた。

その通り。ヒノキに似たサワラ、ネズコ、アスナロ、コウヤマキをまとめて全部ご禁制にして、「間違えて伐りました」と言い逃れられないようにした。


葉がよく似てるんだったよね。ええと、葉の裏側に白いYの字が並んで見えるのがヒノキ、XやWはサワラ、ベッタリ白いのがアスナロ・・・だったっけ?

そう、気孔線というものだ。ちなみに、コウヤマキは木肌が似ている。


山の中で茂っていたら、きっと見分けがつかないだろうな。じぃじ先生は、分かるんだよね?

もちろんだ・・・と得意顔したいところだが、やっぱり葉を裏返して確認したいね。


あらら。じゃあ、私は見分けられなくてもいいんだ。良かった。
「明日はヒノキになろう」ってずっと思い続けている木。井上靖『あすなろ物語』にも出てくる。あすはなろう、で、「アスナロ」の名前になったんだよね。なんか健気だなぁ。

その姿に、昔の人は、将来に向かう意欲を見たんだろうな。
木曽の長野県林業大学校の学生寮の名前は「翌檜(アスヒ)寮」だよ。


学校らしいネーミングだね。似ているのは姿だけ? 分類上はどうなのかな。

ヒノキ科アスナロ属だよ。日本固有種で、北海道南部から・本州・九州の山地に分布している。


あ、やっぱり本物の親戚なんだ。青森が有名だよね。ヒバって呼ばれてる。

そう。ヒバは「檜葉」の意味だ。ほか、秋田ではツガルヒノキ、岩手・山形では「クマサキ」、石川・富山では「アテ」、新潟佐渡では「アテビ」など、呼び名はいろいろある。
またその変種としてヒノキアスナロがあり、アスナロ分布圏の北部、栃木県日光付近から北海道渡島半島南部に分布、日本のアスナロ属総蓄積の大半を占めている。でもこれも含めて特に区分せず「アスナロ」あるいは「ヒバ」と呼んでいる例は多い。


建築にも使われるんでしょ? ヒノキに比べて建築用材として劣るというわけではないんだよね。

そのとおり。材質は耐朽性・耐湿性等に優れていて、中でも青森ヒバは最高級木材だ。
中尊寺の金色堂(1124年建立)を知っているかな。


奥州藤原氏が建てた、金色に輝くお堂だ。

そう。あの建物は青森のアスナロ材で造られている。弘前城(1811年天守閣再建)もそうと聞くし、使用している文化財は他にもたくさんあるとのこと。
また注目される効能としては虫除けだ。ヒノキチオールという成分の働きで、アスナロで建てた家には蚊が来ないといわれ、芳香剤、抗菌剤などに多用される。


アスナロなのに、ヒノキチオール・・・って言いたいところだけど、成分の名前なんだよね。

そうそう。ヒノキの名はついているけれど、その生体の含量はヒノキよりアスナロの方がはるかに多いそうだよ。


うーん・・・ヒノキと遜色ないじゃない。
効能はヒノキより高いし、生育環境だってヒノキより日陰に強いんでしょ? だから木曽はあれこれ対策を打ってるわけで。

ヒノキ林の下層に、ヒノキより耐陰性の強いアスナロが侵入すると、ヒノキはアスナロに負けて、アスナロ林化するという当然の現象「遷移」が起こる。


すると、ヒノキが負けてしまってアスナロの極相林になってしまう(→2013.6ちょっと教えて)。

したがって、木曽谷ではヒノキ美林を維持するために、アスナロの侵攻を阻止する処置、つまり遷移という自然現象を止める人為的処置が必要で、
@下層アスナロの除去、
A上層ヒノキに混じるアスナロ(種子供給源)があれば伐除、
B林床ヒノキの受光を良くするため上層ヒノキ弱度伐開、
といった作業を行っているというわけさ。


それって、アスナロはヒノキよりも悪条件でも育つってことだよね。う〜ん・・・。

どうした? 何にひっかかっている?


材質良し、効能良し、生育環境のハードルは低め。それなら、ヒノキより優秀って言えない? それなのに、どうして二番手扱いされるの? 
どうしてヒノキと同じように使われなかったの? 親戚ならなおのこと、一緒にうまくやっていけばいいのに。

ああ、そういうことか。共に優れた建築材だけれど、ヒノキの方が分布は広く、特に日本文化の中心近くで手に入りやすかったから、ではないだろうか。
それで世間に広く「高級建築材はヒノキ」という概念が定着し、常識化していったんじゃないかと。


あ、地理的な話ってこと? 
ヒノキは都に近いところに育ち、一方、アスナロは東北地方で身近な木だった。
なるほど、情報は都発信の時代だものね。じゃあ分布さえ違えば、立場は逆転していたのかなぁ。

ああ、それはあり得るかもしれないな。


アスナロ、なんだかかわいそうだなぁ。
優秀なのに、木曽谷では二番手どころか、まるでヒノキの敵みたいな扱いじゃない。

おいおい、ちょっと待て。誤解するな。木曽谷の話は、あくまで木曽谷でのことだよ。
アスナロについても、原生林、あるいはそれに類するような林は、地域の極相林でもあり、各地で保護林として指定され、禁伐処置がとられたりしているさ。青森県・石川県、新潟県佐渡などの自治体の木にも制定されているし。


じゃあ、アスナロ林が保護されてないというわけではないんだよね。

もちろんそうだよ。
ただ木曽谷については、アスナロよりもヒノキ優先。それは、そもそもヒノキ美林で有名であり、伊勢神宮御遷宮用材はじめ銘柄の高級用材提供などの役目を担う、ヒノキこそ大切な地域だからね。


その林や山の単位で、どの木を育てるかを決めているということ? 木曽ではヒノキが優先されて、青森はアスナロ優先?

いや、生育分布と歴史の流れの話だよ。本州北部では圧倒的にアスナロが優勢で、それがずっと昔から現在まで尊重されてきているということ。
木曽谷はヒノキだ。だが、近年耐陰性の強い、すなわち遷移系列上優位にあるアスナロが台頭してきたから、ヒノキ林維持のための処置が必要になったということだ。


ねぇ、アスナロの林を見たいと思ったら、どこに行けばいいの? やっぱり青森?

そうだな。青森下北・津軽半島を中心に分布するアスナロ、いや、ここは敢えてヒバと言おう。その一帯のヒバ林は、秋田のスギ林、長野木曽のヒノキ林と共に、我が国の「三大美林」として有名だからね。
保護林としては、青森市・五所川原市の国有林にある「眺望山アスナロ植物群落保護林」かな。


保護林?

動植物の保護や遺伝資源の保存等を目的として設定された森林のことだ。樹木の配置や森林の構成、成長の過程を観察し、森林施業に生かそうとするもの。
1915(大正4)年に国有林が独自に発足させた制度で、眺望山は制度発足間もない1918(大正7)年に対象となった。


重要な意味のある森林なんだなぁ。じゃあ、そこがじぃじ先生のおススメなんだね。

あ、いやそれは・・・あの・・・。


え? 違うの?

なんとも答えに困るところだ。おススメとなると、やっぱり木曽ヒノキが一番なんだよなぁ。


・・・じぃじ先生、それお答えになっていないよ! 今回はアスナロの話!
 

 

     


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