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2014.06
森林雑学ゼミ
 

春日山原始林、ナギとシカ

 

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天然記念物・春日山原始林、コジイ花盛り。

 

 

 

 


林床に、ナギ幼樹(左)とナンキンハゼの集団(右)

 

 

 

 

 

天然記念物へ侵攻するナギとナンキンハゼを後押しするシカもまた天然記念物。




 

 

 昨今、原始林に郷土樹種でない樹種が増え、それまでその地にあった樹種に取って代ろうとする現象が、日本の森林で見られます。
 「林相(森林の様相)が変化する」「林相が維持できなくなる」、この状況の顕著でさしせまった例が、以前も話題にした、奈良の春日山です(→2012.6.17ひとりごと2014.5ちょっと教えて)。

 

 「春日山原始林」は、山焼きで有名な若草山の南東、250 ha余に広がる照葉樹林。コジイ、ツクバネガシ、ウラジロガシ、イチイガシなどが生育し、古く平安時代、841年に春日大社の神山として狩猟・伐採が禁止されました。ずっと時代を経て、豊臣秀吉はスギ1万本を補植したとか。
 自然状態が良好に保たれてきた森林は、1924(大正13)年に天然記念物、1955(昭和30)年には特別天然記念物に、指定されています。
 ところが、この「原始林」が今、林相の維持・存続の危機に瀕しているのです。

 

 理由は、ナギ、ナンキンハゼといった郷土樹種でない樹種が増えたこと。
 ナギは国産種ですが、奈良にはありませんでした。768年、春日大社への献木をきっかけに重用、社殿背後の御蓋山は「春日大社ナギ林」となり、1923(大正12)年には天然記念物に。このナギが、春日山原始林へと勢力をのばしています。
 一方のナンキンハゼは中国原産で、昭和の初期、公園樹として奈良に導入。これが春日山原始林内のちょっと開けたところに群落を作り拡大しています。
 そしてこれらの侵攻を後押ししているのが、奈良といえば誰もが思い浮かべるシカの存在です。
 奈良公園のシカは神鹿として手厚く保護されてきました。太平洋戦争中には70頭程度に減ったものの、戦後は増加、1957(昭和32)年に天然記念物の指定を受けた後も増え続けて、現在は1,200頭とか。
 これだけ増えると、樹木の食害も目立ち(→2014.5ちょっと教えて)、シカは原始林にもどんどん入り込んで、本来の植生シイ・カシ類の低木や芽生えを食い荒らします。一方で、アセビやシキミ、そしてナギやナンキンハゼは食べません。木に含まれる特殊な成分のためと言われます。
 つまり、シカが食べるのは本来の植生の稚樹(後継樹)の方ばかりで、侵略者たちは残るというわけです。

 

 ・・・とすれば将来、森林の姿は変わっていくことになります。
 確認しておきますが、遷移が進行して、林相が変化するのは、自然界としてあたりまえのことです。それに動物が関与することも、大なり小なりあって当然。先述の御蓋山自体が、その結果の天然記念物指定なのですから。
 しかし、この春日山のケースは、事情が異なります。
 人間の保護で増えたシカが、ナギやナンキンハゼの拡大進行を加速させているということ。シカがいなくてもその変化は起こったかもしれないが、他所から持ってきた献木や公園樹の繁茂によって起こっていること、といった点から、特筆すべき例でしょう。
 「林相が変化する」。
 それは、春日山原始林においては、照葉樹原生林という天然記念物指定の理由が消滅することを意味するに他ならないのです。

 こうした事態に、管理当局も対策検討委員会を設置。増えすぎたナギなどの伐採、シカ除けの柵設置などをこの5月から開始しました。


  

(c)只木良也 2014

 

 

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