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2012.09
じぃじ先生 ちょっと教えて
 

葉が針みたいだから針葉樹、じゃないの?

 

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シダレヤナギの細長い葉。でも広葉樹。





「似てはいるがマキには非ず」のイヌマキは針葉樹。





ナギ。こんなに丸いのに広葉樹じゃないなんて・・・。





コウヤマキ。マキの代表選手と思ってた・・・。





アカマツ。球果の着いた「針葉樹」の典型です。





球果が着生するハリモミ(バラモミ)。
モミとは言いながら、実はトウヒ属。





街路樹でおなじみのイチョウ。
広葉樹? いやいや、だまされてはいけない。





ダイオウショウは針葉樹。この“針”は長いなぁ。





ヒノキは針葉樹。厚い葉がうろこ状に重なっているということから、「麟片葉(りんぺんよう)」と呼ばれる。

 

前回の話。シダレヤナギって、葉はあんなに細いのに広葉樹で、ヤナギ科には丸型の葉の木もあるってことだったよね。(→2012.8ちょっと教えて

うん。それがどうした?

ちょっとね、針葉樹と広葉樹で混乱してる・・・。
同じ科の木で、葉の形が違う場合って他にもあるのかな? 

あるよ。マキ科なんてどうだろう。イヌマキとナギを例にしてみようか。
イヌマキは庭や生垣によく植えられる樹種だ。イヌというのは・・・


あ、「似てるけど違うもの」? こないだのイヌコリヤナギみたいな。(→2012.8ちょっと教えて

そう、よく覚えていた。偽の意味。「似てはいるがマキには非ず」ということが、その名の由来だ。
あ、ちなみに、実は、「マキ」という樹は存在しない。


ええっ? どういうこと? 

「マキ」とは「真木」のこと。
「有用針葉樹」という言葉がある。読んで字のごとく、用途の多い針葉樹のことを広く指し、それらを古来、「真木」と称していたんだ。
具体的な樹種としては、スギ、ヒノキなどだ。


あ、じゃあイヌマキは、有用針葉樹に似てるだけで、実際はそうじゃない木なんだね。
似ているってことは、針葉樹の分類?

そう。イヌマキは針葉樹。その葉は0.5〜1.0cmの幅があり、長さ5〜15cmで細長い。
一方で、奈良の春日大社など、お宮の森でよく見かけるナギ。
同じマキ科マキ属だが、こちらの葉は丸型。でも針葉樹なんだ。
なお、マキの代表のように思われているコウヤマキは、実はこれらとは科が違ってコウヤマキ科。葉は、イヌマキよりさらに細い。

そっかぁ。「針」って言葉に振り回されちゃいけないんだね。
ちょっと待って、針葉樹って英語ではなんていうのかな? 
・・・conifer。「針」という意味ではなく、cone(球果)が語源なんだね。

まぁ、英語では needle-leafの語も使っているけどね。
今、調べたこと、実は、それこそ針葉樹・広葉樹についてポイントになるものだよ。

針葉樹のことを coniferって言って、cone(球果)が基なんだってこと?

そのcone、球果だよ。
「裸子植物」と呼ばれるものがある。その中身は、ソテツの類やイチョウ、そしてマツなどの球果植物。
球果とはマツなら松ぼっくりのことだが、これらは、中生代(2億2500万年〜6500万年前まで)からの生き残りだ。まさに「生きている化石」だね。


「生きている化石」は、昔のままの姿で今も生きている生物のことだよね。シーラカンスとか。

そう。シーラカンスはもちろん、植物の世界では、恐竜がいる時代から生えていたシダ植物、裸子植物だ。
・・・おっと、裸子植物と被子植物というのは、学校で習ったよね?


種子植物の種類で、発生の歴史の古い順に、裸子植物、被子植物。
花弁やガクがなく胚珠がむきだしになっているのが裸子植物、花弁とガクがあって胚珠が子房に包まれているのが被子植物・・・だよね?

よし、正解。話を戻そう。
さっき挙げた球果植物の多くの種は葉が細長く、針葉樹と呼ばれるようになった。
その後の植物進化で生まれた被子植物の葉は、広がりを持つものが主体で、木本(木を指す植物用語)のそれらは、広葉樹と呼ばれたんだ。


え? え? じゃ、やっぱり葉の形なんじゃないの?

こらこら、結論を急ぐな(笑)。
針葉樹と広葉樹は対語だ。
ただ、さっきの経緯から、「針葉樹」は「裸子植物」といつしかニアリーイコールの意味となった。


針みたいな葉の木が針葉樹、広く大きい葉の木が広葉樹とは限らないってことか・・・。
そういえば、イチョウって、葉はあんな形だけど針葉樹なんだよね。

お、よく知ってるなぁ。そう言われるよ。
イチョウは、球果植物ではないけれど、裸子植物なので針葉樹、という短絡的な解釈が生まれたというわけだ。


じゃあ、厳密には、「イチョウは裸子植物で、一般的な広葉樹(被子植物)ではない」ということ?

そういうこと。
針葉樹と広葉樹ということで大きな違いを言えば、道管だね。

道管って、木の幹の中に水を通す専門の管のことだよね?

そう。道管を持っているのは広葉樹だ。
一方、針葉樹にあるのは仮道管。専門の管じゃなくて、幹本体を構成する繊維がその役割を兼ねているにすぎないんだ。


仮のものが、植物の進化とともに、専門の管になったんだね。

もうひとつ両者の違いを言うと、生育環境のことがある。
さっき木本の発生歴史にイチョウやマツを挙げただろう? マツってどんなところに育つんだっけ?


えーっと、やせた土地にも強いんだったよね。

そう。それはマツに限らず、針葉樹全体に言えることだ。
発生の歴史が古いなら、それだけ生育環境は未熟だったはず。すなわち、初期に発生した針葉樹は、やせた土地でも耐えられるということだ。
一方、広葉樹は肥えた土地に育つ。
あのヒノキ美林・赤沢(→2009.9ちょっと教えて)でも、谷沿いの良い場所には広葉樹が生えているよ。


良い場所って?

谷沿いは、まず水の条件が良い。
それから、斜面を下ってきた土の中の栄養分が溜りやすいというわけ。
赤沢の場合も、谷沿いの良い立地は広葉樹に占拠され、ヒノキは負けてしまう。
だから、広葉樹の勢力が衰える斜面中部以上のところに勢力をのばし、結果あの美林ができたんだ。

ふぅん、広葉樹はぜいたくなんだね。

あははは。ぜいたくか。それはいい表現だ。
そのぜいたくな広葉樹は、地球上の条件の良いところに勢力を拡大、かつて地球上を独占していた針葉樹は、次第に生活条件の悪い寒い地方に追いやられ、今の状態になったともいえる。
・・・さて、では、ここで問題です。
タケの葉っぱは細長いですが、あれは針葉樹、広葉樹、どちらでしょう?


どちらでもありません! タケはイネ科だもん。「木」じゃないから。

お答え、完璧です。残念、知ってたかぁ・・・。

うふふふ。

 

 

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