3.11から2年、復旧は思うように進んでないみたいだね。
そうだね。もし地震・津波だけならもう少し進んだだろうが、今回は放射能汚染という大きなことがある。
新聞に、「岩手や宮城では一定の進捗が見られるが、福島についてはあまり進んでいない」という調査結果が載っていたよ。
福島県・・・まずは除染だよね、とにかく。
そう。「除染」というのは放射能汚染されたものを取り除くことで、正確に言うと、人間生活空間から汚染物を遠ざける為に行う処置のことだ。段階としては3つ。
まずは汚染された土や草木を「取り除く」こと、これには農業機械系で、能率のいい機械が案出されている。
次にそれらを丈夫な袋に入れ、土やコンクリートで囲うなど放射能の影響を「遮る」こと、
そして、それを仮置き場に「離して」安全保管すること、だ。
どれくらいの量になるんだろう。
正直言ってわからない。いろいろ試算はあるだろうが、そのどれが正しいかは、誰にもわからない・・・。
未曾有の災害、大変な作業だよね。
とにかく大量だ。だから、今、取り除いたものの保管場所、「仮置き場」と「中間貯蔵施設」が大きな問題になっている。
保管場所は、できるだけ人の生活空間から距離をとったところ。
そこでは、汚染物は放射能遮断性の良いビニール袋に入れられ、遮水性に優れたシートで覆われる。万一の水漏れに備えて、集水装置もつくられるという話だよ。
仮置き場とか中間貯蔵施設っていうけど・・・。
ねぇ、結局のところ、放射性物質の処理方法って、とりあえず集めて置いておく以外の方法がないってことなんだよね。
痛いところを突くなぁ。
そう、残念ながら今のところこれといった処理方法が在るわけでなし、時間の経過が頼み、と言わざるを得ないんだ。
処理方法が決まるまで置いておく、ということなのかな。でも、置くっていっても、どこに置いておくの?
それなんだよ、今、じぃじ先生が心配しているのは。
心配・・・?
実はね、仮置き場・中間貯蔵施設として考えられているものに、国有林があるんだ。
非常事態だから国有地を提供する、という考えもわからなくはない。でも、そのベースに、「木が生えている=遊休地」という考えが、どうもあるような気がするんだよ(→2011.11森林雑学ゼミ)。
え、え、え? ちょっと待って。国有林へ運び込むの?
うん。とすると森林のいろいろな働き、生態系サービス(→2011.2森林雑学ゼミ)に、大なり小なり障害が出るだろう。特に林産物、水、レクリエーションなどにね。
風評被害だって避けられず、その土地産の木材、農作物は敬遠され、行楽客も来なくなると思われる。
現に今だって、被災地は苦悩しているじゃないか。
林業の人は? 森の保全をする人たちだって、放射能の近くに入りたくないよね。
そもそも、森が荒れちゃうよ。
もちろん、中間貯蔵施設はコンクリート枠つきだとか、専門家たちが知恵をしぼって万全を期すだろうけれど、どうこう言っても前例や実績があるものじゃない。感情として心配にならざるをえないね。
水の問題は? 川の水源地をそんな風に使って大丈夫なのかな。
いい質問だ。置き場として森林を使うことについての懸念はもちろんだが、そもそも、森林自体も汚染されているところがあるのを忘れちゃいけない。
放射能や汚染物を受け止めた葉が落ちると、土を汚染することになる。
今回の原発事故で、スギ林内に分布するセシウムは、葉に38パーセント、落葉に33パーセントという調査結果があるんだ(→2011.10.10ひとりごと)。
セシウムって放射能物質の主役みたいなものだよね。土が汚染されれば、それを通ってきた水も汚染されて・・・。
そこが計り知れず、怖いところだ。
もっとも、チェルノブイリはじめ各所での調査・研究から、セシウムは土壌の粘土鉱物中に吸着されて水に溶け出さないという結果が出ているらしい。それが本当なら、とりあえずは一安心なんだが・・・。
しかし、水には溶け出しにくいものの、植物には他の栄養物と一緒に吸収されるという。森林生態系における循環システムを覚えているかい?
光合成 → 落葉 → 分解 → 土壌生成 → 光合成 →・・・→ だったよね。(→2011.2森林雑学ゼミ)
そう。森林生態系の特質はその物質循環が円滑に機能していることだ。
農地とは異なって、森林が人が施肥しなくても自給自足で生育できるのは、この循環システムのお蔭で・・・。
え? それって、ずーっと森の中に残ってることにならない?
そう、そうなんだよ。放射性汚染物はいつまでも森林の中に残っていることになる。セシウム137の半減期は30年というからね。
森林は、野や畑より高濃度を保つ可能性が高い。とくにキノコ類は吸着が多いみたいで、直接食べるものだけに要注意だ。
事実、1986年チェルノブイリ原発事故のときも森林での濃度は高かったという。
チェルノブイリの時は、どんな措置がとられたの?
汚染分布が調べられ、汚染の激しかったところは立ち入り禁止だ。
するとその禁止地区に人がいなくなったため、希少生物が復活してきた例があるらしいよ。
なんだか切ないなぁ。
放射性物質って植物自体には影響しないのかな。原爆が落とされた広島・長崎では、50年は草が生えないと言われたけれど緑は意外に早く戻ってきた、という話を聞いたことがあるけど。
植物の成長に及ぼす影響の話は、あまり聞かないね。
目下の大課題は、あくまで人間が利用する段階で、人間の健康への影響が出ないようにすることだ。
森林そのものだって除染しないといけないよね、きっと。
うん。人間の生活地域の近在の森林は対象だ。
具体的には、人家や施設から20mのところ。汚染されやすい葉とそれの落葉したものの除去が主となる。
それ以外の場所は放っておくの?
厳しい質問だなぁ。でも、現実問題として考えてごらん。広い広い日本の森林全域隅々まで、除染を徹底するなんて可能だろうか。
そもそもの話、除染はもちろん大切だが、葉と落葉を除去する「除染」の作業は、同時に、まさに森林の生命線である循環システムの破壊活動でもあるんだ。
人間が生活する区域なら、それも致し方ないかもしれないが、山の奥の奥までそんな「除染」ができるとは、残念ながら考えがたいね。
そっかぁ、そうだよね・・・。その森林の除染は、一度やればいいの?
これもまた難しい質問だな。
ただ、これまでの実施状況からわかっていることは、
@森林の除染は人間生活圏から20m幅の下草、地表の落葉枝、立ち木の葉の除去で効果的、
A落葉樹では1回の除染で効果が見込まれるが、常緑樹では3−4年継続が望ましい、ということ。
Aについては、落葉樹ではその年に汚染された葉が一度に落ちるが、常緑樹(ここでは針葉樹:スギやヒノキ)ではその年の汚染葉が4〜5年にわたって落ちるためだと思われる。
・・・う〜ん、はっきりと答えられないところが、なんとも苦しいなぁ。
何もかも、わからないことだらけ、専門家の人たちも手探り状態なんだね。それだけ大きな震災だったんだ・・・。 なんだか、質問するごとに、じぃじ先生を責めているような気分になってきちゃったよ。
でも、この問題と何十年も向き合っていかなきゃいけないのは、私たちの世代。だから心配だし、いろんなことを知りたくなる。
この話、これから先も聞かせてね。 |