1ヵ月ほど前の新聞紙面に、自営林家と思われる方の投書がありました。
海外から安い木材がどんどん入ってくるので、国内の木材は売れず、山の荒廃を招いているという内容でした。
おっしゃる通り。では、どうしてそうなったのでしょう。
投書では触れられていませんでしたが、わが国の林業不振・山の荒廃を招いている本当の原因は、「海外から安い木材が入ってくること」ではありません。「入ってくるように、日本が自ら制度を変えたこと」にあるのです。
木材関税撤廃が日本の山村に与えた影響についてはこれまでも繰り返し取り上げてきましたが(→2010.8、2011.12、2012.6森林雑学ゼミ、2011.12ちょっと教えて)、TPP議論活発な昨今、そのいきさつをあえてもう一度振り返っておきましょう。
昭和20年、太平洋戦争終結。敗戦国・日本は復興のために大量の木材を必要としたことから、国産材の価格は高騰しました。
そこで安い外国産木材を輸入しやすくしようと関税の撤廃を推進。昭和26年には丸太関税撤廃、昭和39年には木材貿易完全自由化にいたりました。
その一方、将来の木材需要に対応しようと打ち出した拡大造林政策では、遊休地・草地はもちろん、広葉樹林を伐採してまで人工林化。全国で針葉樹(スギ、ヒノキ、カラマツなど)人工林が進められ、後に、わが国森林面積の40%(国土面積の1/4)を占めるまでに拡大しました。
こうした人工林は、いまや木材供給可能なまでに生育しています。
ところが貿易自由化以来半世紀の間に、木材市場は、安くて豊富な外材に席巻されてしまっている状態です。
昭和30年には95%だった木材自給率は、平成10年代には18%にまで落ち込み、木材価格も昭和50年頃をピークにして、現在はその3割まで下落しています。
林業の不振のため、農山村から若い働き手が流出して山林労務は老齢化、生育に伴って必要な人工林の間伐等保育手入れも不十分な状態が、続いているのです。
せっかく、木材を供給できる宝の山である人工林が育っているというのに。これでは本末転倒ではありませんか。
安易な自由化が、林業という日本の基幹産業のひとつを破壊し、さらに農山村を追いつめてしまったのです。
昭和40年代から平成10年までの30年間に、全国14万集落のうち5%の7,500集落が消え、平成22年の国政調査では、更に、3,000集落が消えたといいます。
森林国・日本においては、林業の衰退は日本全国共通の悩みであり、それは農山村の経済不振だけでなく、国土の環境を護る森林の力も衰えてくることを忘れてはなりません。
こうした過去を背景に、私は、今盛んなTPP論議、コメをはじめとする農産物関税撤廃論に危機感を覚えています。
関税が緩和されれば、今すでに40%しかない食品自給率がさらに低下し、国内農業が衰微することは必定。それは、木材の世界で50年間に実際に起こったことを鑑みればわかること。しかも今度は食料です。
もし何かの理由で、輸入が途絶えたとしたら・・・。輸入依存の国民生活の悲劇は、想像したくもありません。
(c)只木良也 2013
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